ここのところ、パチンコ店がパチンコ台の釘調整を行ったことにより風営法違反で逮捕、というニュースが相次いでいます。
さらに、東京で「釘学校」を経営している企業の社員も無承認変更ほう助の疑いで逮捕されたとのことで、かなり驚きました。
実際のところパチンコ台の釘調整は今に始まった話ではないのですが、これは本当に違法なのでしょうか。
私が業界に在籍していた20数年前の状況もまじえ、パチンコ台の釘調整と法律上の運用について解説したいと思います。
原則的には釘調整はできない
結論から言うと、パチンコ店に納品されたパチンコ台の釘調整を行うことは、厳密には公安委員会から事前の承認を受けない限り、無承認変更として違法となります。
ただ、実際には釘調整の都度変更承認申請することなど現実的ではありません。
なぜ違法となるのか
パチンコ店は、風営法における
「著しく客の射幸心をそそるおそれがあるものとして同項の国家公安委員会規則で定める基準に該当する遊技機を設置してその営業を営んではならない」
という規定を遵守しなければなりません。
国家公安委員会が規則で定める基準というのが、パチンコ台の仕様などを定めた「遊技機の認定及び型式の検定等に関する規則」や、その解釈基準のことを言います。そして国家公安委員会から指定試験機関として委託を受け、この基準に適合しているかどうかの検定試験を行っているのが保安通信協会(保通協)です。その他にGLI japanという試験機関もあります。
パチンコ店に設置してもよいパチンコ台とは、これらの指定試験機関で行われる検定試験に合格し、その後都道府県の公安委員会の認定を受けたものです。これ以外のものはホールに設置できません。
つまり、検定試験に合格した釘の状態で納品されたパチンコ台に出玉性能が変わるような釘調整を行ってしまうと、不正改造(無承認変更)とみなされてしまいます。
昔は釘調整をすることが当たり前だった?
私が業界に在籍していた20数年前は、新台が納品されるとパチンコメーカーの営業マンがその釘調整を行うことが当たり前でした。パチンコ台の入替作業はお店の閉店後ですから、新台初日の朝まで各ホールを回って釘調整していたのは懐かしい思い出です。ただ、今と違って当時のパチンコ台はメーカー出荷時の状態では釘がきつすぎるために玉が通りにくく、すぐに玉が詰まってブドウだらけになるものでした。そのため、玉が通る状態にするという納品作業の一環として釘調整が認められていたのだろうと思います。
ホール側にもいわゆる「釘師」と呼ばれるプロの釘師の方がいたり、マネージャーやオーナーの方が釘調整を行うことは一般的でした。当時は今のような液晶演出がメインの台よりも、羽根モノや一発台といった玉の動きを純粋に楽しむ台がまだ多くありました。そのような台は釘調整によって勝敗が左右されるので、ホールにとっても釘調整は重要視されていました。
当時でも釘調整は違法行為になるという認識はありましたが、上記のように納品作業やメンテナンスの範囲内として半ば慣習的に行われていました。
ダービー物語事件
釘調整に関する事件として個人的に特に印象に残っているのが、1993年のいわゆる「ダービー物語事件」です。
ダービー物語という機種において、検定試験に合格した状態の台に釘調整を行い、特定の入賞口に玉を誘導することで連チャン性が操作できるというものでした。過剰に射幸心をあおることと、明らかに不正改造(無承認変更)にあたるということでパチンコメーカーの社員とホールの店長が逮捕された事件です。
先ほども書いたように当時はメーカーの社員が納品時に釘調整を行うことが一般的だったため、店長だけではなくメーカーの社員も逮捕されたのでしょう。
この事件にはCR機の導入が絡んでいる等、隠れた理由もありそうですが、メーカーまで巻き込む大事件となったことが衝撃的でした。
今でも実際に釘調整は行わている?
現在も、実際はほとんどのホールで釘調整を行っているはずです。ただし出玉性能が変わるような釘調整ではありません。下記の風営法の規定を遵守するためです。
(構造及び設備の維持)
風俗営業等の規制及び適正化等に関する法律 第12条
風俗営業者は、営業所の構造及び設備を、第四条第二項第一号の技術上の基準に適合するように維持しなければならない。
パチンコ台は、お店の設備の1つなので適性に維持しなければいけません。
パチンコ台の釘には、多ければ1日に何万発もの玉がぶつかります。当然、その衝撃で釘がズレてくることもあるでしょう。これに関してなら「検定試験に合格した時点から釘の状態が変化してしまったので、元の状態を維持するためにメンテナンスとしての釘調整を行う」という建前ができます。
パチンコ遊技機にかかる技術上の規格では、「遊技釘及び風車は、遊技板に対しておおむね垂直に打ち込まれているものであること」としか規定されていません。結局どこまで釘を曲げていいのかという基準は曖昧です。
そこで、2017年4月以降の新台に関しては、メーカーから釘確認シートと呼ばれる釘調整の目安になるような透明の下敷きのようなものが同梱されるようになりました。
この釘確認シートの範囲内の調整であれば、不正改造にはあたらない…という根拠はないのですが、現場でひとつの基準になっているのが事実のようです。
最後に
釘調整を行ったからといって直ちに摘発されることは少ないでしょう。
大事なことは、釘調整がなぜ違法行為になるのかということを理解することです。
遊技機規則や関係法令の理解、射幸心をそそるおそれがないかということを常に意識しましょう。
来年(2023年)の1月にはスマートパチンコの登場も控えており、釘調整の必要がない台も登場してくるでしょう。
遊技規則の改正や解釈の変更などに対応し、法令を遵守した営業がさらに求められます。
弊所でも最新の動向をいち早く確認し、風俗営業を行っている方々の力になれるよう日々精進していきたいと考えています。
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