風俗営業許可を必要とするお店は建築基準法と密接に関連することがあります。
いざお店を始めようと思っても建築基準法の制限によって不可能というケースはあり得ます。
風営法や条例、消防法の基準だけではなく、建築基準法についても知っておきましょう。
建築基準法が関係する規制
建築基準法は建築物の敷地、構造や設備、用途の最低基準を定めた法律です。
地震や火災などの災害が起きたときに被害を最小限に抑えるために規制されています。
用途地域
建築基準法における用途地域は、都市計画法で定められた13種類に分類されます。
用途地域は風営法でも立地制限にかかわってきます。
用途地域は住居系(8種類)、商業系(2種類)、工業系(3種類)に分類されます。
用途地域の内容に関しては国土交通省のHPをご確認ください。
風営法においては、この中の住居系の用途地域で営業を禁止している条例が多くあります。
例えば東京都の条例では、住居集合地域として住居系の用途地域を指定して風俗営業は禁止されます。
つまり、風営法上は商業系と工業系の用途地域では風俗営業が可能ということです。
建築基準法との矛盾
実は建築基準法においても用途地域ごとに建築物の用途制限が設けられています。
建築基準法における建物用途の制限(東京都都市整備局より引用)
上記の表を見ると、風営法では営業可能とされる用途地域でも建築基準法では不可能とされるケースがあります。
例えばキャバクラやホストクラブは建築基準法の規定に従えば、商業地域と準工業地域でしか営業できません。
近隣商業地域でも営業可能な風営法の規定と矛盾しています。
これについては、所管官庁の違いや法の目的が違うので風営法の規定をクリアしていれば風俗営業許可を受けられることがほとんどです。
ただし、都道府県によっては建築基準法の規定を持ち出してくることもあり得るので確認が必要です。
建築基準法における火災対策
火災が発生した際に被害が拡大しないようにするために消防法と建築基準法の規制があります。
建築基準法では、火災が発生したときに安全に避難できるような構造や設備の基準を定めています。
内装の制限
キャバクラやホストクラブなどは内装のデザインや素材にはこだわりたいところです。
しかし、建築基準法では内装に関して一定の制限を設けています。
床から1.2m以上の高さの壁、天井などの仕上げ材には燃えにくい素材を使用する必要があります。
燃えにくい素材とは、燃焼しない、有害なガスが発生しない、有害な性状変化をしないといった要件を満たした「防火材料」のことです。
建築基準法では防火材料として下記の3つが定められています。
不燃材料 | 加熱開始後20分以上要件を満たすもの |
準不燃材料 | 加熱開始後10分以上要件を満たすもの |
難燃材料 | 加熱開始後5分以上要件を満たすもの |
デザインだけで判断すると建築基準法の基準に適合しない可能性があります。
ただし、店舗の規模によって内装の基準は変わるので事前に工事業者と相談しておきましょう。
避難経路
火災が発生したときは避難経路が重要となります。
建築基準法施行令121条で2以上の直通階段に関する規定があります。
建築物の避難階以外の階が次の各号のいずれかに該当する場合においては、その階から避難階又は地上に通ずる二以上の直通階段を設けなければならない。
三 次に掲げる用途に供する階でその階に客席、客室その他これらに類するものを有するもの(五階以下の階で、その階の居室の床面積の合計が百平方メートルを超えず、かつ、その階に避難上有効なバルコニー、屋外通路その他これらに類するもの及びその階から避難階又は地上に通ずる直通階段で第百二十三条第二項又は第三項の規定に適合するものが設けられているもの並びに避難階の直上階又は直下階である五階以下の階でその階の居室の床面積の合計が百平方メートルを超えないものを除く。)イ キャバレー、カフェー、ナイトクラブ又はバー
ロ 個室付浴場業その他客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務を提供する営業を営む施設
ハ ヌードスタジオその他これに類する興行場(劇場、映画館又は演芸場に該当するものを除く。)
ニ 専ら異性を同伴する客の休憩の用に供する施設
ホ 店舗型電話異性紹介営業その他これに類する営業を営む店舗
建築基準法施行令第121条1項3号
上記の通り、風俗営業許可を要するお店では2以上の避難経路を確保する必要があります。
ただし、お店のある階数や床面積に応じて緩和措置があります。
緩和措置
5階以下で居室床面積が100㎡以下、避難階の直上階、直下階であれば、2以上の直通階段という条件は除外されます。
それ以外の場合は下記3つの要件にすべて該当すれば除外となります。
- 居室床面積の合計が100㎡以下(主要構造部が耐火構造の場合は200㎡)
- 避難上有効なバルコニー・屋外通路が設けられている
- 屋外避難階段又は特別避難階段が設けられている
- 避難階・・・直接地上に通じる出入口がある階で一般的には1階
- 直通階段・・・各階において最短距離で地上(避難階)に到達できる階段
- 避難上有効なバルコニー・・・避難器具が設置され災害時にタラップを使って地上まで下りられるバルコニー
- 避難階段・・・階段そのものや区画壁、天井などが耐火構造になっている階段で設置の要件や構造によって次の3つのもの
①屋内避難階段
②屋外避難階段
③特別避難階段
東京都建築安全条例
都道府県の条例で建築基準法の基準に上乗せで規制されていることがあります。
東京都では、2001年の歌舞伎町雑居ビル火災を受けて東京都建築安全条例も改正されました。
風俗営業用途を含む雑居ビルを念頭において規制が強化されています。
東京都建築安全条例7条の2によると風俗営業許可を必要とするお店は、地下1階においても2以上の直通階段の設置又は避難施設として、避難階段か特別避難階段のいずれかを設置する必要があります。
避難設備の設置について(東京都都市整備局)
営業所の構造・設備の変更
風俗営業を行っている場合、お店の構造や設備を勝手に変更することはできません。
下記の変更を行うには事前に公安委員会の承認が必要となります。
(風俗営業の営業所の構造及び設備の軽微な変更)
第二条 法第九条第一項の内閣府令で定める軽微な変更は、営業所の構造及び設備に係る変更のうち、次に掲げる変更以外の変更とする。
一 建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)第二条第十四号に規定する大規模の修繕又は同条第十五号に規定する大規模の模様替に該当する変更
二 客室の位置、数又は床面積の変更
三 壁、ふすまその他営業所の内部を仕切るための設備の変更
四 営業の方法の変更に係る構造又は設備の変更
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に基づく許可申請書の添付書類等に関する内閣府令第2条
大規模の修繕や模様替え、壁、ふすま、はりなどの定義は建築基準法で定められています。
建築基準法における大規模修繕と大規模模様替えの定義
十四 大規模の修繕 建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の修繕をいう。十五 大規模の模様替 建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の模様替をいう。
建築基準法第2条第14、15号
主要構造部とは壁、床、柱、はり、屋根または階段のことです。
これらのいずれか1種について半分以上の修繕を行えば大規模修繕に当たります。
つまり、変更承認申請が必要になるか否かの判断は建築基準法の基準が適用されます。
最後に
風俗営業許可を必要とするお店を開業するには建築基準法の正確な理解も必要です。
その他にも風営法、関係条例、消防法など気を付けなければならない法令はたくさんあります。
もちろん、お店を開業しようするのであればすべて理解しておくべきです。
しかし、それらをすべて網羅した上でお店づくりを行うには膨大な時間と手間がかかります。
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法令を遵守した上で適切なサポートが可能です。
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