消防法の規定は風俗営業や飲食店の営業を開始する際には避けて通れないものです。
しかし、消防法の規定は風営法と比較すると軽視されがちです。
もし、お店で火災が発生した場合、従業員やお客さんの生命にかかわります。
消防法を知らなかったではすまされません。
また、消防法は災害が発生するたびに規制が強化されてきた経緯があります。
お店を開業する際には管轄の消防署に届出が必要となります。
そこで現在の消防法の規定に則った上でポイントを解説します。

消防法による規制

消防法が規制対象とするものは主に防火対象物になります。
キャバクラやホストクラブ、ガールズバーなどは不特定多数の人が出入りします。
そのため、火災が起きた場合は多大な被害が予想されます。
だからこそ消防法による規制が重要になってきます。

防火対象物

そもそも防火対象物とはどのようなものでしょうか?
消防法では下記の通り定義しています。

防火対象物とは、山林又は舟車、船きよ若しくはふ頭に繋留された船舶、建築物その他の工作物若しくはこれらに属する物をいう。

消防法第2条2項

原則として建物はすべて防火対象物となります。
さらに言うと不特定多数の人に使用される建造物等のことをいいます。
つまり、火災が発生した場合に甚大な被害が生じるおそれがあるので法的な措置を講じる必要のある物といえます。
その上で特定の用途の防火対象物を「特定防火対象物」として指定しています。
用途別のグループ分けは消防法施行令別表第1で例示されています。
特定用途対象物は火災が起きた際のリスクが比較的高いため、規制が厳しくなります。
そしてキャバクラやホストクラブ(2項イ)や性風俗店(2項ハ)、飲食店(3項ロ)は特定防火対象物になります。

防炎防火対象物

消防法ではさらに防炎性能を有したカーテンやじゅうたんなどの使用を義務付けた防火対象物を「防炎防火対象物」として規制しています。

防災防火対象物(東京消防庁HPより)
  • 高層建築物(地盤面から高さ31mを超える建築物)
  • 地下街
  • 消防法施行令別表第1の1項~4項、5項イ、6項、9項イ、12項ロ、16の3項に掲げる防火対象物
    テナントなどに入居していると複合用途に分類されることもあります
  • 工作中の建築物その他の工作物のうち、次のもの
    1.建築物(都市計画区以外のもっぱら住居の用に供するもの及びこれに附属するものを除く)
    2.プラットフォーム上屋
    3.貯蔵槽
    4.化学工業製品製造装置
    5.前2号に掲げるものに類する工作物

上記の防炎防火対象物では、カーテンなどに一定の性能を有する「防炎対象物品」を使用しなければなりません。(防炎対象物品には防炎表示が付されています)

消防設備の設置

消防法では建物の用途や面積に応じた消防設備の設置を規定しています。
消防設備とは「消火設備」「警報設備」「避難設備」の3つを指します。
2019年の消防法施行令の改正により調理目的で火を使用する場合は、原則としてすべて消火器の設置が義務付けられました。
つまり小規模な飲食店でも消防署の立入検査が実施される可能性があるということです。
その他、地階(地下階)や3階以上に店舗がある場合、無窓階※が存在する場合は消防設備の設置基準が厳しくなります。
※消防法規則で定める避難上有効な開口部を有していない階

消防設備に関してはお店の規模や条件によって必要なものが異なります。
消防設備の設置工事ができる者は資格者に限られるケースがあります。
よって費用も大きく変わってくる可能性があります。
また、建築基準法ともかかわってくるので工事開始前に消防署に相談することをおすすめします。

消防署への届出

飲食店を始める場合は消防法に基づき、都道府県の条例の定めに応じて所定の届出を行う必要があります。
東京都では「火災予防条例」によって下記の届出に関して規定されています。
居抜きなどの場合は「防火対象物使用開始届」、「防火管理者選任届」、「消防計画」の3点セットとなるケースが大半です。

防火管理者選任届

お店の収容人数に応じて防火管理者を選任して設置する必要があります。
さらに設置したら管轄の消防署へ届出をしなければなりません。

詳細はこちら→防火管理者選任届出(東京消防庁)

  • 収容人数30人以上かつ延べ床面積300㎡以上→甲種防火管理者
  • 収容人数30人以上かつ延べ床面積300㎡未満→乙種防火管理者
  • 収容人数30人以下→防火管理者の選任義務なし

防火管理者の資格を取得するためには日本防火・防災協会の講習(甲種は2日、乙種は1日)を受けて効果測定に合格する必要があります。
防火・防災管理者講習(東京消防庁)

収容人員の算定方法

飲食店・社交飲食店と遊技場(パチンコ店など)で若干相違点があります。
実際に算定すると30人という数はあっさりと超えるケースが多いです。

飲食店・社交飲食店(キャバクラやガールズバーなど)

  1. 従業者の数
  2. 客席の部分ごとに次のイ及びロによって算定した数の合計数
    イ 固定式のイス席を設ける部分は、イス席の数に対応する数
      長イス式のイス席にあたっては当該幅を0.5mで割った数(1未満切り捨て)
    ロ その他の部分にあたっては床面積を3mで割った数

遊技場(パチンコ店やアミューズメントカジノ)

  1. 従業者の数
  2. 遊技のための機械器具を使用して遊技を行うことのできる数
  3. 閲覧、飲食又は休憩の用に供する固定式のイス席が設けられている場合はイス席の数に対応する数
    長イス式のイス席にあたっては当該幅を0.5mで割った数(1未満切り捨て)

防火対象物使用開始届

建物や建物の一部を使用する場合に必要となる届出です。
上記の通り、飲食店などは防火対象物となるので必ず届出が必要となります。
建物の使用を開始する7日前までに管轄の消防署に届出をしなければなりません。

詳細はこちら→防火対象物使用開始届出(東京消防庁)
添付書類の一例
・案内図
・平面図
・詳細図
・立面図
・断面図
・展開図
・室内仕上げ表、建具表

防火対象物工事等計画届出書

お店を開業するにあたり、内装工事を行う場合に必要となる届出です。
居抜きでそのまま使用せず、間仕切りの変更や模様替えなどの工事を行う場合が対象となります。
工事を開始する7日前までに下記の書類を添付して管轄の消防署に届出を行う必要があります。

詳細はこちら→防火対象物工事等計画届出(東京消防庁)
添付書類の一例
・防火対象物の概要表
・案内図
・平面図
・詳細図
・立面図
・断面図
・展開図
・室内仕上げ表、建具表
火気使用設備、火気使用器具を設置する場合はその位置図

消防用設備設置届出書

建物の用途や規模に応じて消防用設備を設置した場合に必要となる届出です。
設置後4日以内に管轄の消防署に届出をする必要があります。

様式はこちら→消防用設備設置届出(東京消防庁)
また、建物の規模や消防用設備によっては着工届の提出と消防検査が実施されることがあります。
着工届は消防設備士だけが作成できるものがあります。
専門的な内容となるため、工事を実施した業者に確認しておきましょう。

消防計画の作成

防火管理者に任命された者は消防計画を作成して提出する義務を負います。
しかし、たいていの消防署や役所では消防計画のひな型がありますのでそれを参考に作成しましょう。

様式とひな型はこちら→消防計画作成届出(東京消防庁)

ひな型に沿って作成していけばそれほど難しいものではありません。
消防計画が出来上がったら消防計画作成届出書と一緒に提出しましょう。

必要な届出を怠った場合

上記の届出を怠った場合は条例で罰則が定められています。
東京都では事業者の公表や罰金が課されることがあります。
さらに必要な設備の設置不備などの消防法違反があれば重い罰則を受けることがあります。(使用停止命令、1~3年の懲役、300万以下の罰金等)
もし、実際に火災が起きたとなれば、損害賠償や刑事責任に問われることもあります。
そのため、必ず必要な届出を行って消防署に指導を仰ぎましょう。

防火対象物点検報告制度

平成13年の歌舞伎町ビル火災を契機に制定されたものです。
この制度により、年1回の有資格者(防火対象物点検資格者)による点検と報告が義務付けられました。
ただし、すべてのお店が対象となるわけではありません。
キャバクラやガールズバーなどの場合、下記のいずれかの要件に該当した場合のみ対象となります。

  1. 収容人数30人以上300人未満
    ・3階以上か地階にお店がある
    ・階段が1つしかない(屋外に階段があれば免除)
  2. 収容人数300人以上
点検事項の一例
  • 防火管理者を選任しているか
  • 避難訓練を実施しているか
  • 避難階段に障害がないか
  • 防火戸に障害がないか
  • カーテン等の防炎対象物品に防炎表示があるか

防火対象物点検報告を怠ったり虚偽の報告をした場合は罰則があります。(30万以下の罰金又は勾留)

最後に

消防法の知識は飲食店などの営業とは直接関係ないものです。
また、消防署への届出もオーナー様や工事業者が手配してくれるケースが多々あります。
しかし、火災発生のリスクがある以上は防災知識を習得しておく必要があります。
消防設備の点検や避難経路の整備を怠っていると災害が起きてから必ず後悔します。
弊所でも消防関係の手続きのサポートは可能です。
これを機に防災について再度確認してみてはいかがでしょうか。

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