風俗営業や飲食店を始めるためには公安委員会や保健所の許可を受けるだけではなく、他の法令も遵守する必要があります。
風俗営業や飲食店では調理などで火を使用することが多いため、消防法で定められている消火器具の設置や点検、報告などをする義務があります。
また、歌舞伎町や大宮の雑居ビルで過去に大きな災害が発生したこともあり、避難経路の確保や建築基準法の基準も大幅に強化されています。そして何より人命にかかわることですし、大切な店舗で災害を起こさないためにも消防法・建築基準法は必ず遵守しましょう。

消防署への届出

建築物の用途や規模によって消防設備の設置や届出・報告が義務付けられます。
実際はビルの管理会社や内装業者などで届出をしているケースも多いのですが、オーナー様や管理者の方は防災知識は知らなかったではすまないことになるので一通り把握しておくことを強くお勧めします。
それでは開業時に必要となる手続きを確認しておきましょう。

防火管理者選任届出書

収容人数によって防火管理者を選任して配置する義務があります。
収容人数30人以下は配置する必要はありませんが、従業者全員と客席の数がカウントされるので大抵のケースでは配置義務が生じます。防火管理者の資格を取得するためには日本防火・防災協会の講習(甲種は2日、乙種は1日)を受けて効果測定に合格する必要があります。

  • 収容人数が30人以上かつ300㎡以上の延床面積→甲種防火管理者
  • 収容人数が30人以上かつ300㎡未満の延床面積→乙種防火管理者
  • 収容人数が30人未満→配置義務なし

収容人員の算定方法

飲食店・社交飲食店と遊技場(パチンコ店など)で若干相違点がありますが、次に掲げる数の合計数が収容人員となります。30人という数はあっさりと超えるケースが多いです。

飲食店・社交飲食店など

  1. 従業者の数
  2. 客席の部分ごとに次のイ及びロによって算定した数の合計数
    イ 固定式のイス席を設ける部分は、イス席の数に対応する数
      長イス式のイス席にあたっては当該幅を0.5mで割った数(1未満切り捨て)
    ロ その他の部分にあたっては床面積を3mで割った数

遊技場

  1. 従業者の数
  2. 遊技のための機械器具を使用して遊技を行うことのできる数
  3. 閲覧、飲食又は休憩の用に供する固定式のイス席が設けられている場合はイス席の数に対応する数
    長イス式のイス席にあたっては当該幅を0.5mで割った数(1未満切り捨て)

防火対象物使用開始届出書

消防法における防火対象物とは不特定多数の人に利用される建造物等のことをいいますので、ほとんどの建造物が該当すると思ってもらってかまいません。
つまりテナントを借りて飲食店などを開業する場合は、ほぼすべてのケースで防火対象物使用開始届出書の届出が必要となります。店舗の使用を開始する7日前までに届出をする必要があり、工事の有無は関係ありません。

防火対象物工事等計画届出書

間取りの変更や修繕をする場合は、防火対象物使用開始届出書に加えて、工事を開始する7日前までに、必要に応じて以下の添付書類を添えて、防火対象物工事等計画届出書も提出する必要があります。
添付書類
・防火対象物の概要表
・案内図
・平面図
・詳細図
・立面図
・断面図
・展開図
・室内仕上げ表、建具表
火気使用設備、火気使用器具を設置する場合はその位置図

消防用設備設置届出書

消防設備を設置した場合に提出する必要があり、その後、営業所で消防検査が行われます。

消防設備とは以下の3つ設備のことをいいます。

  1. 消火設備・・・消火器、スプリンクラーなど
  2. 警報設備・・・自動火災報知設備、火災通報装置など
  3. 避難設備・・・はしごや救助袋、誘導灯や誘導標識など

消防計画の作成

防火管理者は消防計画を作成して提出する義務があります。
消防計画の内容は各自治体の条例などで定められており、様式も備えられています。
東京都の場合は東京消防庁のHPで確認が可能です。
消防計画作成届出書と一緒に提出しましょう。

建築基準法との関係

建築基準法は建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する基準を定めて、国民の生命や財産の保護を目的にしています。風俗営業や飲食店は特殊建築物に該当するため、通常より厳しい基準が定められています。
ここでは検査の際に確認されることの多い避難経路に関して解説します。
近年、避難経路の不備で被害が拡大したケースが非常に多いのでオーナー様や管理者の方は必ず正確な知識のもとで営業していただければと思います。

2以上の直通階段

建築基準法施行令という法令の121条で2以上の直通階段に関する規定があります。
古いビルなどは建築時には法令に適合していたが、現在の法令には適合しないという既存不適格建築物の場合もあります。そのような場合は直ちには違反とはなりませんが、増改築などを実施する場合は現在の法令に適合させる必要があります。

1.建築物の避難階以外の階が次の各号のいずれかに該当する場合においては、その階から避難階又は地上に通ずる2以上の直通階段を設けなければならない。
三 次に掲げる用途に供する階でその階に客席、客室その他これらに類するものを有するもの
(五階以下の階で、その階の居室の床面積の合計が100㎡を超えず、かつ、その階に避難上有効なバルコニー、屋外通路その他これらに類するもの及びその階から避難階又は地上に通ずる直通階段が設けられているもの並びに避難階の直上階又は直下階である五階以下の階でその階の居室の床面積の合計が100㎡を超えないものを除く)
イ キャバレー、カフェー、ナイトクラブ又はバー
ロ 個室付浴場、店舗型性風俗営業店など
ハ ヌードスタジオその他これに類する興行場
二 専ら異性を同伴する客の休憩の用に供する施設
ホ 店舗型異性紹介営業その他これに類する営業を営む店舗

建築基準法施行令121条

要約すると原則的には風俗営業を行うには2以上の直通階段を設ける必要があり、階数や床面積によっては緩和措置があるということです。

緩和措置

5階以下で居室床面積が100㎡以下で避難階の直上階、直下階では2以上の直通階段という条件は除外されます。
それ以外の場合は下記3つの要件にすべて該当すれば除外となります。

  • 居室床面積の合計が100㎡以下(主要構造部が耐火構造の場合は200㎡)
  • 避難上有効なバルコニー・屋外通路が設けられている
  • 屋外避難階段又は特別避難階段が設けられている
  • 避難階・・・直接地上に通じる出入口がある階で一般的には1階
  • 直通階段・・・各階において最短距離で地上(避難階)に到達できる階段
  • 避難上有効なバルコニー・・・避難器具が設置され災害時にタラップを使って地上まで下りられるバルコニー
  • 避難階段・・・階段そのものや区画壁、天井などが耐火構造になっている階段で設置の要件や構造によって次の3つのもの
    ①屋内避難階段
    ②屋外避難階段
    ③特別避難階段

東京都建築安全条例

都道府県の条例で建築基準法の基準に上乗せで規制されていることがあります。
東京都の場合ですと2001年の歌舞伎町雑居ビル火災を受けて東京都建築安全条例も改正されました。
条例7条の2によると上記施行令121条3号イ~ホに該当する店舗は、地下1階においても2以上の直通階段の設置又は避難施設として、避難階段か特別避難階段のいずれかを設置する必要があります。
また、100㎡以下のパチンコ店やゲームセンターでも3階以上か地下の店舗では特別避難階段や屋外避難階段などの避難施設を設置する必要があります。

法令順守で安全・安心な業界を

火災などの災害を起こさないことが大事ですが、万が一災害が発生してしまっても被害を最小限にとどめられるように準備しておく必要があります。
そのためにも日頃からの避難訓練や経路の確保、各テナント様での情報の共有が必要です。
過去の災害から風俗営業に対して偏見を持たれているのも事実ですが、まずはできることを確実に実施して安心・安全な業界として発展してくためにも法令は必ず守りましょう。