特定遊興飲食店営業とは、平成28年6月28日に改正された風営法施行に伴い、新たに導入された営業類型です。風俗営業でも性風俗特殊営業でもありませんが、風営法上で許可対象として規制されている営業です。
ナイトクラブやショーパブなどが典型的な営業形態となり、許可を受けることができれば深夜でもお酒を提供して客に遊興をさせられる営業となります。
まだ制度が始まって7年ということで、許可店舗の絶対数は少ないのですが、年々増加傾向にあります。
ナイトタイムエコノミーという経済活動がありますが、日本は諸外国と比較してナイトスポットが少ないといわれています。2023年4月14日には新宿で東急歌舞伎町タワーのオープンも控えており、インバウンドの回復とともに特定遊興飲食店の需要も増加していくのではと思います。

特定遊興飲食店営業の許可数の推移
「令和4年における風俗営業等の現状と風俗関係事犯の取締り状況等について」より引用

特定遊興飲食店営業許可の基準は風俗営業とほぼ同様とはいえ、完全に同一ではありません。
特定遊興飲食店営業の概要に関してはこちらのページで解説しています。今回は風俗営業の許可基準と混同しがちで気を付けるポイントに絞って解説したいと思います。

人的欠格事由

特定遊興飲食店営業の許可を受けられない人(法人)に関しては、人的要件を定める風営法4条が準用されているので風俗営業許可の要件と同様です。

ただし、許可を取り消された前歴については特定遊興飲食店営業に係るものに限られます。
つまり風俗営業の許可を取り消された前歴があっても、特定遊興飲食店営業の許可を受けることはできます。(検挙されて有罪となった場合はNG)

立地制限

風俗営業の許可基準と最も混同しやすいポイントが立地制限です。
特定遊興飲食店営業の立地制限は、「ポジティブリスト方式」が採用されていること、ホテル等内適合営業所の制度がある点が決定的な違いです。
ポジティブリスト方式とは、原則すべて禁止にしておいて許可するものだけを法令に列記するやり方なので風俗営業の許可と比較して自由度の低い制度といえます。
ポジティブリスト方式を採用している特定遊興飲食店営業許可においては、営業所設置許容地域として各都道府県の条例で指定された地域以外では許可を受けることはできません。

営業所設置許容地域

営業所設置許容地域は下記の風営法施行規則(政令)22条の設置基準に則り、各都道府県の条例で指定されます。

(特定遊興飲食店営業の許可に係る営業所設置許容地域の指定に関する条例の基準)
第二十二条 法第三十一条の二十三において準用する法第四条第二項第二号の政令で定める基準は、次のとおりとする。

 特定遊興飲食店営業の営業所の設置が許容される地域(次号において「営業所設置許容地域」という。)の指定は、次のいずれにも該当する地域内の地域について行うこと。

 次のいずれかに該当する地域であること。

(1) 風俗営業等密集地域

(2) その他の地域のうち、深夜において一平方キロメートルにつきおおむね百人以下の割合で人が居住する地域

 次に掲げる地域でないこと。

(1) 住居集合地域

(2) 住居集合地域以外の地域のうち、住居の用に併せて商業又は工業の用に供されている地域で、住居が相当数集合しているため、深夜における当該地域の風俗環境の保全につき特に配慮を必要とするもの

(3) (1)又は(2)に掲げる地域に隣接する地域(当該地域が風俗営業等密集地域に該当する場合にあつては、幹線道路の各側端から外側おおむね五十メートルを限度とする区域内の地域を除く。)

(4) その他の地域のうち、保全対象施設(特にその周辺の深夜における良好な風俗環境を保全する必要がある施設として都道府県の条例で定めるものに限る。)の周辺の地域(当該保全対象施設の敷地(これらの用に供するものと決定した土地を含む。)の周囲おおむね百メートルを限度とする区域内の地域に限る。)

風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行令第22条

営業設置許容地域の基準

条例で営業所設置許容地域として指定されるには、積極要件とされる「1号イ」と消極要件とされる「1号ロ」の両方の基準を満たす必要があります。

積極要件(政令1号イ)

まずは、積極要件として下記1、2のいずれかの基準を満たしている必要があります。

積極要件
  1. 風俗営業密集地域
    店舗が比較的集合しており、かつ、風俗営業、特定遊興飲食店営業、深夜酒類提供飲食店営業及び興行場の営業所が1平方キロメートルにつきおおむね300か所以上の割合で設置されている地域。
  2. その他の地域のうち、深夜において1平方キロメートルにつきおおむね100人以下の割合で人が居住する地域(深夜居住者僅少地域)
    1.とは逆の発想で、湾岸エリアや工業地帯、山中など風俗環境に変化が生じても影響を受ける者が比較的少ない地域のことです。

風俗営業密集地域とは、駅前などの繁華街をイメージしていただければわかりやすいと思います。
深夜居住者僅少地域は、人が住むには適さないような場所で特定遊興飲食店営業を行えば理解を得られやすく、娯楽施設を開発する需要が高い地域で、湾岸エリアなどが想定されています。

消極要件(政令1号ロ)

消極要件は、以下の3種類の地域のいずれにも該当しないことが必要です。
住居隣接地域には例外があり、幹線道路沿いについては条例で幹線道路の側端からおおむね50mを限度として住居隣接地域から除外することができます。

消極要件
  1. 住居集合地域
    住居が多数集合しており、住居以外の用途に供される土地が少ない地域
  2. 住居相当数集合地域
    高層マンションが存在するなど住居が相当数存在する地域
  3. 住居隣接地域(例外あり)
    住居集合地域と住居相当数集合地域に隣接する地域で許容設置地域との緩衝地帯の役割

保全対象施設

風俗営業の許可と同様に保全対象施設からの距離制限があります。

一定の保全対象施設から100m以内の地域では特定遊興飲食店営業はできません。
保全対象施設の種類と距離制限は都道府県に事情にあわせて条例によって定められます。
ただし、風俗営業許可と違い特例地域がないため、周辺施設の調査は必ず必要となります。

ホテル等内適合営業所

特定遊興飲食店営業には風俗営業のような特例地域の規定はありませんが、一定の基準を満たしたホテル等の施設内では、立地にかかわらず営業が可能となります。一定の基準は、国家公安委員会規則76条に定められていますが、要約すると下記の通りとなります。

ホテル等内適合基準(国家公安委員会規則76条)
  • 旅館業許可を受けている施設内にあること(簡易宿泊所営業、下宿営業以外)
  • 営業所と営業所のある階、直上、直下の部分を適切な業者が管理していること
  • バルコニーを設置する場合は出入口に二重扉を設ける
  • ホテル等の営業者が管理できる場所のみを通過して営業所に出入りできる構造
  • 営業所への出入りを適切に管理できる体制
  • ラブホテルでないこと

東京都で特定遊興飲食店営業ができる場所

実際に東京都を例に営業所設置許容地域を確認してみましょう。
上記の政令の基準に基づいて条例と条令施行規則で、営業所許容設置地域が定めらています。
東京都の条例と条例施行規則を確認すると、東京都で特定遊興飲食店営業ができる地域は、以下のようにまとめられます。

条例で指定される営業所設置許容地域

※上記の地域のうち、病院、診療所、助産施設、乳児院、母子生活支援施設、児童養護施設、障害児入所施設、情緒障害児短期治療施設、児童自立支援施設、保育所、幼保連携型認定こども園(深夜に営むもの)の敷地から100m以内の地域を除く

条例施行規則で規定される例外
  • 商業地域の例外
    ・乳児院、母子生活支援施設、児童養護施設、障害児入所施設、情緒障害児短期治療施設、児童自立支援施設、保育所、幼保連携型認定こども園の敷地から100m以内50m以内
    ・病院及び診療所(8床以上)の敷地から100m以内20m以内
    ・第二種助産施設、診療所(7床以下)の敷地から100m以内10m以内
  • 住居隣接地域の例外
    住居集合地域又は住居集合地域からの距離が20m以下の地域(当該区域が風俗営業密集地域であっては、幹線道路の各側端から50m以内の地域を除く)は営業所設置不可

住居隣接地域の例外は下記のようなイメージです。

住居集合地域から20m以下の例外
幹線道路沿いに風俗営業密集地域がある場合

営業所の技術的基準

基本的には風俗営業の営業所に関する技術的基準と同様ですが、下記の点で違いがあります。

  • 客室の床面積の基準は33㎡
  • 営業所の外部からの見通しに関しては特に基準は設けられていない
  • 照度の基準は10ルクス以下とならないように維持する必要があるが、営業形態によって測定方法が違う

照度の測定基準

照度に関しては、ナイトクラブのダンスフロアのように飲食をさせる客席と遊興させるスペースが分かれている場合と、ショーパブのように飲食をさせる客席と遊興させるスペースが同一の場合で照度の測定基準が変わります。

客席と遊興をさせるスペースが分かれている場合

原則として飲食をさせる客席のみが照度測定の対象となります。
ただし、飲食をさせる客席の面積が客室全体の1/5以下となる場合は、遊興をさせるスペースも測定対象となります。

ナイトクラブなどのダンスフロアで照度を10ルクス以下とならないように維持することは困難なので、飲食をさせるスペース(客席)を客室全体の20%以上確保する必要があります。
客席の面積が客室の面積の1/5以下で遊興をさせるスペースの照度が10ルクス以下となった場合は、低照度飲食店に該当してしまいます。

飲食をさせる客席と遊興をさせるスペースが分かれていない場合

営業時間の半分以上で10ルクス以下とならないように照度を維持する必要があります

特定遊興飲食店営業としての営業時間が基準となるので、午前0時以降の営業時間に対しての割合となることに注意が必要です。

最後に

特定遊興飲食店営業は、深夜に酒類を提供してダンスなどの遊興をさせることのできる非常に魅力的な営業です。
その分、風俗上の問題を誘発するおそれが大きいことから、風俗営業と比較しても許可の基準が厳格で対象も限定しています。
特定遊興飲食店営業を始めたい方は実際に営業が可能かということを事前によく確認しましょう。

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