風俗営業は、誰でもどんな場所でもどんなお店でもできるわけではありません。
許可を受けるための要件として大きく分類すると人的欠格事由、営業地域の制限、営業所の構造及び設備、について、それぞれの基準が風営法第4条で規定されています。(その他に遊技機の基準(4号営業のみ)があります)
一つでも要件を満たさない場合は許可を受けることはできませんが、すべての基準を充足した場合は公安委員会は許可をしなければなりません。
風俗営業の許可申請の際には膨大な書類が必要となりますが、何故この添付書類が必要になるのか?ということを理解するためにも、今回はこの中から人的欠格事由に関して少し深く掘り下げてみたいと思います。
人的欠格事由がある理由
日本では本来、憲法22条で公共の福祉に反しない限り営業の自由が保障されています。
しかし、風俗営業に関しては公共の福祉に与える影響が小さくないため、営業を始めようとする者に対して「人的欠格事由」という一定の基準を設けて不適格者には許可を与えないように規制されています。
例えば未成年者は営業者になれないという規定があります。これは、風俗営業を行うには社会的に大きな責任を伴うことから、未成年者ではその責任を負えず、適切に営業することが期待できないとされているからです。
人的欠格事由の規定が及ぶ営業
人的欠格事由の基準の対象となる営業者は、風俗営業の種別に応じて許可を受けようとするすべての者です。
つまり、キャバクラやホストクラブなどの1号営業からゲームセンターなどの5号営業の許可を受けようとするすべての者が対象となります。
また、特定遊興飲食店営業の許可を受けようとする者に対しては、この規定が準用されているので対象となりますが、ガールズバーやコンカフェなどで深夜酒類提供飲食店営業の届出をする者には準用されていないため、人的欠格事由の規定は及びません。
人的欠格事由の基準
人的欠格事由の具体的な基準は風営法4条1項の1号から11号で規定されています。
一つでもこの基準に該当してしまうと風俗営業許可を受けることはできません。
破産手続きの決定を受けている者(1号)
「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第4条1項1号
破産手続の開始決定とは、破産法30条1項の規定に基づいて申し立てがされ、裁判所から破産手続開始の決定がされた場合です。
これに対して復権とは、同法255条の規定の規定に基づき、破産者本来の法的地位が回復した者です。
破産者に対しては様々な社会的制限がありますが、風営法では破産者に対する資格制限を設けています。
そのため、風俗営業許可申請の際に本籍地の市町村が発行する「身分証明書」を添付書類とすることで破産者でないことを証明する必要があります。
刑に処せられてから5年を経過していない者(2号)
1年以上の懲役・禁固の刑に処せされ、又は次に掲げる罪を犯して1年未満の懲役・罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して5年を経過していない者
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第4条1項2号
少々回りくどい表現なので、まとめると下記の3つの事項をすべて満たしていると欠格事由に該当する者となります。
- 1年以上の懲役・禁固の刑に処せられたこと(すべての犯罪)又は、1年未満の懲役・罰金の刑に処せられたこと(4条1項2号イ~ワに列記された犯罪)※
- 執行を終わったこと又は、執行を受けることがなくなったこと※
- 2.から起算して5年を経過していないこ
※「刑に処せられ」とは刑の言渡しに係る裁判が確定することです。
※「執行を終わり」刑の執行を受け終わったことで、懲役・禁固では刑期を満了して釈放されたことです。
※4条1項2号イ~ワに列記された犯罪とは刑法や労働基準法、児童福祉法などに違反した場合をいいます。(風営法4条1項2号イ~ワをご確認ください)
また、解釈運用基準では4条1項2項の欠格事由に該当する者とは、下記の通り定義されています。
- 刑の言渡しに係る裁判が確定したが刑の執行がなされていない者(執行猶予中の者を含む)
- 刑の執行中である者
- 刑の執行を終わったが終了の日から起算して5年を経過しない者
- 刑の言渡しに係る裁判が確定した後に刑の執行を受けることがなくなったが、その日から起算して5年を経過しない者
犯罪を犯すような者に風俗営業を許可するわけにはいきませんので当然といえば当然の規定です。
虚偽の申告を行っても許可申請の際に、公安委員会からしっかりと調査されるので正直に申告しましょう。
暴力的不法行為を行うおそれのある者(3号)
集団的に、又は常習的に暴力的不法行為その他の罪に当たる違法な行為で国家公安委員会規則で定めるものを行うおそれがあると認めるに足りる相当な理由のある者
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第4条1項3号
「暴力的不法行為その他の罪」は、国家公安委員会規則6条で列記されていますのでご確認ください。
一般的には暴力団の構成員を想定していますが、準構成員や反社会的勢力の構成員なども含みます。
風俗営業許可申請の際には、誓約書を提出して疎明します。
アルコール、麻薬などの中毒者(4号)
アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚醒剤の中毒者
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第4条1項4号
アルコールや麻薬などの中毒者は、医学的にも一般的にも判断力、自制力等に欠けるとされます。
他人の生命や財産を侵害するおそれもあるため、風俗営業において責任ある立場に置くことはふさわしくないため欠格事由とされています。
風俗営業許可申請の際には、誓約書を提出して疎明します。
心身の故障により風俗営業の業務を適正に実施できない者(5号)
心身の故障により風俗営業の業務を適正に実施できない者として国家公安委員会規則で定めるもの
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第4条1項5号
国家公安委員会規則では、「精神機能の障害により風俗営業の業務を適正に実施するに当たつて必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者」とされています。
令和元年の改正前は、成年被後見人と被保佐人が明示されていましたが、削除されて新設された事項です。
成年被後見人も被保佐人も対象とはなり得ますが、一律に判断せずに個別的に審査となりました。
それに伴い、添付書類とされていた「登記されていないことの証明書」は不要となり、誓約書の内容も若干変更する必要があります。
風俗営業の許可を取り消されて5年を経過しない者(6号)
第26条1項の規定により風俗営業の許可を取り消され、当該取消し日から起算して5年を経過しない者当該許可を取り消された者が法人である場合においては、当該取消しに係る聴聞の期日及び場所が公示された日前六十日以内に当該法人の役員(業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者をいい、相談役、顧問その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、法人に対し業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者と同等以上の支配力を有するものと認められる者を含む。以下この項において同じ。)であつた者で当該取消しの日から起算して五年を経過しないものを含む。)
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第4条1項6号
営業の種別を問わず、法令違反行為等を理由に営業許可を取り消された者は、その後5年間は風俗営業を行えません。
風俗営業許可の取消に関する第26条の規定に関してはこちら↓
風俗営業許可が対象となるので特定遊興飲食店営業が取り消された者は、この要件には該当しません。
法人の場合は、取消しに係る聴聞の期日及び場所が公示された日前60以内にその法人の役員(支配力を有すると認められる者を含む)だったものが該当します。
また、複数の営業所を経営していた場合は、すべての営業所について欠格事由に該当することになります。
許可取消処分を受けて許可証を返納した者(7号)
第26条1項の規定により風俗営業の許可の取消処分に係る聴聞の期日及び場所が公示された日から当該処分をする日又は当該処分をしないことを決定する日までの間に第10条第1項第1号の規定による許可証の返納をした者(風俗営業の廃止について相当な理由があるものを除く。)で当該返納をした日から起算して5年を経過しない者
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第4条1項7号
趣旨としては、許可取消になるような法令違反をした場合、すぐに廃業届を出して許可を返納し、その後に新規許可申請を行うといった脱法行為の防止です。
合併や分割を行った法人の役員(8、9号)
前号に規定する期間内に合併により消滅した法人又は第10条第1項第1号の規定による許可証の返納をした法人(合併または風俗営業の廃止について相当な理由がある者を除く。)の前号の公示の日前60日以内に役員であった者で当該消滅又は返納の日から起算して5年を経過しないもの
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第4条1項8号
第7号に規定する期間内に分割により同号の聴聞に係る風俗営業を承継させ、若しくは分割により当該風俗営業以外の風俗営業を承継した法人(分割ついて相当な理由がある者を除く。)又はこれらの法人の同号の公示の日前60日以内に役員であった者で当該分割の日から起算して5年を経過しないもの
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第4条1項9号
会社法に規定された合併や分割を悪用して処分逃れをしようとする者に対して防止するための趣旨です。
7号と同様に脱法行為のために合併や分割によって法人を変えても人的欠格事由に該当します。
未成年者(10号)
営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者。ただし、その者が風俗営業の相続人であって、その法定代理人が前各号及び次号のいずれにも該当しない場合を除くものとする
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第4条1項10号
未成年者は、私法上の行為能力がないため、原則として風俗営業の営業者にはなれません。
ただし、下記の2つの例外があります。
- 営業に関し成年者と同一の行為能力を有する者
民法6条1項の規定により親権者から営業を許されている場合 - 風俗営業者の相続人
1号から9号までのいずれかに該当する法人(11号)
法人でその役員のうちに第1号から第9号までのいずれかに該当する者があるもの
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第4条1項11号
上記1号から9号までの人的欠格事由に該当する役員が在籍する法人は許可を受けることができません。
「役員」については「業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者」とされています。
会社法上の会計監査人及び会計参与は通常は「役員」には含まれません。
この規定があるので、法人の場合の風俗営業許可申請の際には、役員全員の住民票や登記事項証明書、誓約書などを添付する必要があります。
申請者が外国人の場合
風営法では、外国人が風俗営業許可を受けてはならないという規定はありません。
ただし、日本で適切に就労が認められている在留資格を保有している必要があります。
下記の在留資格を有した上で、上記の人的欠格事由に該当しなければ申請者となれますので、必ず在留カード等で確認しましょう。
- 経営・管理
- 永住者
- 日本人の配偶者等
- 永住者の配偶者等
- 定住者
- 特別永住者
日本に滞在していない役員がいる場合は疎明が困難となりますので注意が必要です。
経営・管理以外は従業員としても風俗営業に従事することが可能ですが、資格外活動では風俗営業に従事することはできません。
管理者の選任
申請者に対する基準ではありませんが、営業所の管理者についても人的欠格事由が定められています。
許可申請の段階では、まだ営業が行われていないので適切な管理者の選任の見通しがあることで許可要件は満たされます。
ただし、営業を開始しても管理者を選任しなかった場合は、管理者の規定を定めた風営法24条違反となり、指示処分の対象となります。
最後に
長くなってしまいましたが、以上が風俗営業許可を受けるための人(法人)の基準です。
風俗営業許可を申請するためのルールだからといって機械的に書類を添付すのではなく、なぜ添付が必要なのかという意味を理解した上で申請することによって、より法令遵守の必要性を感じてもらえればと思います。
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