風俗営業を始める際に避けて通れない障壁として「保全対象施設」というものがあります。
学校や病院の目の前にキャバクラやパチンコ店などがあったとします。
まだ判断力の低い年少者に悪影響が出るおそれがあることは容易に想像できます。
そのため、風営法では一定の施設を保全対象施設に指定して、距離制限を設けています。
これは風俗営業許可を受けるためにクリアする必要のある場所的要件の一つです。
開業時に比較的大きな費用が動く風俗営業において保全対象施設の見落としは致命的です。
あらためて最近の動向を反映した「保全対象施設」の内容と調査するための方法を解説します。

保全対象施設とは

保全対象施設とは、その周辺における良好な風俗環境を保全する必要のある施設のことをいいます。
つまり、近くに風俗営業を行っている営業所があると悪影響を受ける施設のことです。
風営法では許可を受けるための要件の一つとして規定されています。

営業所が、良好な風俗環境を保全するため特にその設置を制限する必要があるものとして政令で定める基準に従い都道府県の条例で定める地域内にあるとき。

風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第4条2項2号

保全対象施設は風営法の委任を受け、都道府県の条例によって具体的に指定されます。
下記は東京都の条例で指定されている施設ですが、他の自治体でも大きく異なることはありません。

学校

すべての学校が対象ではなく、学校教育法第1条で規定されている学校が対象とされます。
いわゆる「1条校」といわれる学校です。
幼稚園や小学校などはおなじみの施設ですが、義務教育学校は私が学生の頃には存在しなかった学校です。

学校教育法1条で規定される学校(1条校)
  • 幼稚園
  • 小学校
  • 中学校
  • 義務教育学校
    2016年に制度化された小中学校の区切りをなくした小中一貫校
  • 高等学校
  • 中等教育学校
    1999年に制度化された中高の区切りをなくした中高一貫校
  • 特別支援学校
  • 大学
  • 高等専門学校

上記以外の専門学校や防衛大学校、自動車学校などは1条校ではありません。
ただし、条例で1条校以外の学校を保全対象施設として指定している自治体もあります。
また、最近ではサテライトキャンパスとして、雑居ビルや商業施設のテナントに入居しているケースが増えています。
サテライトキャンパスが1条校に含まれるのかという解釈は公安委員会の判断になりますが、明確な返答を得ることはなかなか困難です。

病院

私たちが日常的に使っている病院という名称ですが、病院と名乗るためには医療法の基準を満たしている必要があります。
医療法の基準を満たし、「病院」と名乗るためには20人以上の人が入院できる施設が必要です。
「病院」と呼べる施設は全国で約8,300施設なので思ったほど多くはありません。

診療所

診療所とは、19人以下の入院設備を有するか入院設備がない医療機関のことです。
●●クリニックや●●医院などはすべて診療所と思ってよいかと思います。
このうち、保全対象施設とされるのは、入院設備を有する診療所のみです。
歯医者やメンタルクリニックなどでも入院設備があれば保全対象施設となり得るので注意が必要です。

東京都ではこちらのサイトで病院・診療所が検索できます。医療機関サービスひまわり

図書館

保全対象施設となる図書館は、図書館法2条1項に規定するものとされています。

この法律において「図書館」とは、図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保存して、一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーシヨン等に資することを目的とする施設で、地方公共団体、日本赤十字社又は一般社団法人若しくは一般財団法人が設置するもの(学校に附属する図書館又は図書室を除く。)をいう。

図書館法2条1項

図書館法2条1項で規定されている設置主体以外が設置した図書館は、保全対象施設となる「図書館」ではありません。
つまり、国が設置する国会図書館や学校法人が設置する図書館は保全対象施設ではありません。
東京都でもいくつかまぎらわしい図書館があります。
判断に迷うことがあればご相談ください。

児童福祉施設

児童福祉施設とは児童福祉法7条1項に規定される施設のことです。

この法律で、児童福祉施設とは、助産施設、乳児院、母子生活支援施設、保育所、幼保連携型認定こども園、児童厚生施設、児童養護施設、障害児入所施設、児童発達支援センター、児童心理治療施設、児童自立支援施設及び児童家庭支援センターとする。

児童福祉法7条1項

東京都の場合すべてではありませんが、福祉保健局のホームページで児童福祉施設の一覧を確認することができるので便利です。
社会福祉施設一覧(東京都福祉保健局ホームページ)
ただし、最新の情報ではないので最終的には自分の目と足を使って調査する必要があります。
一見更地で設置予定であっても保全対象施設とされることがあるので必ず保健所に確認しましょう。

助産施設

経済的理由などで入院や助産ができない妊産婦の出産援助を行う施設です。
病院内に設置されることが多い施設で、東京都の最新の統計では37か所です。

乳児院

何らかの理由で保護者と生活が困難な乳児を預かる施設です。
主に0~2歳頃の子どもが入所しています。
東京都の最新の統計では11か所しかありません。

母子生活支援施設

18歳未満の子どもを養育している母子家庭など、生活上の問題を抱えた母子が入所している施設です。
複雑な事情が絡むことから一般的には住所は公開されていません。
しかし、私の知る限りでは風俗営業を始めようとする場所の近辺に設置されている可能性は低いといえます。

保育所

保全対象施設の中では比較的距離制限に抵触することの多い施設です。
保育所に関しては、待機児童の問題や少子化対策などで設置数も増えており、予想外の場所に設置されていることがあります。

東京都の保育所は認可保育所、認証保育所、認可外保育所の3種類があります。
また、2015年からスタートした小規模保育事業という制度があります。
しかし、この事業に基づく施設は保全対象施設ではありません。

認可保育所

施設の広さや保育士の配置基準などを満たして都道府県知事や市町村長の認可を受けた保育所です。
認可保育所は風営法における保全対象施設となります。

認証保育所

一定の設置基準を満たして東京都の認証を受けた施設です。他にも千葉市、さいたま市、横浜市などでも独自の基準を設けて保育所を認証しています。(名称が異なることがあります)
風営法における保全対象施設とはなりません。

認可外保育所

認可保育所の基準を満たしていない認可保育所でも認証保育所でもない施設です。
風営法における保全対象施設とはなりません。

幼保連携型認定こども園

2006年からスタートした制度で教育・保育を一体的に行うことができる幼稚園と保育所のハイブリット施設です。認定基準を満たした上で都道府県や市町村から認定を受ける必要があります。
施設の概要に応じて4つの種類がありますが、風営法における保全対象施設とされます。

児童厚生施設

子どもに健全な遊びを提供する施設で、屋外型の児童遊園と屋内型の児童館があります。
児童遊園に関しては注意が必要です。
実は児童遊園という名称がついた公園は数多くあります。
しかし、児童厚生施設となる児童遊園は児童福祉法40条に基づいた児童遊園だけです。
東京都の最新の統計で児童遊園は84か所(23区内は15か所)です。
名称に惑わされず、東京都福祉保健局に確認しましょう。

児童養護施設

保護者のいない児童や、様々な事情のある児童が自立するまで擁護する施設です。
東京都の最新の統計では57か所あります。

障害児入所施設

障害のある児童を入所させて必要な知識や技能の付与や治療を行う施設です。
平成24年の児童福祉法改正に伴い制度化され、福祉型と医療型の2類型があります。

児童発達支援センター

発達障害児とその家族を支援する施設です。
通所理用されるものから、保育園、幼稚園などと連携して支援を行うこともあります。

児童心理治療施設

心理的・精神的問題を抱える子どもたちに医療的な観点から心理治療を行う施設です。
令和2年度の統計では全国で51か所あります。

児童自立支援施設及び児童家庭支援センター

子どもの行動上の問題や非行問題など、他の施設で対応できない専門的な知識を要する相談の対応を行う施設です。
各自治体によって名称が微妙に異なることがあるので、怪しいと思ったら自治体に確認しましょう。

東京都で風俗営業が禁止される地域

東京都では以上の施設が保全対象施設とされ、敷地から周囲100m以内の地域での風俗営業が禁止されています。
ただし、商業地域と近隣商業地域では距離制限の緩和措置があります。

保全対象施設の指定と距離制限は各都道府県の実情にあわせて規制されます。
そのため、許可を受けようとする都道府県の条例を確認して調査する必要があります。

店舗型性風俗特殊営業

店舗型性風俗関連特殊営業においても保全対象施設が指定されています。
デリヘルなどの受付所を設ける場合も同様の規制を受けます。
その他、風営法に規定されている営業ではありませんが、風俗案内所や特定異性接客営業でも保全対象施設による制限が設けられています。

店舗型性風俗特殊営業は、一団地の官公庁施設(官公庁施設の建設等に関する法律(昭和二十六年法律第百八十一号)第二条第四項に規定するものをいう。)、学校(学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定するものをいう。)、図書館(図書館法(昭和二十五年法律第百十八号)第二条第一項に規定するものをいう。)若しくは児童福祉施設(児童福祉法第七条第一項に規定するものをいう。)又はその他の施設でその周辺における善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害する行為若しくは少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止する必要のあるものとして都道府県の条例で定めるものの敷地(これらの用に供するものと決定した土地を含む。)の周囲二百メートルの区域内においては、これを営んではならない。

風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第28条

一団地の官公庁施設とは官公庁街のことで、中央省庁が集まる東京都の霞が関団地などが典型的な例です。
学校、図書館、児童福祉施設、その他の施設(条例で定める)に関しては風俗営業の規定と同様です。
東京都ではその他の施設として、病院・診療所が条例で指定されています。
東京都以外の関東3県では、以下の施設が条例で保全対象施設として指定されています。

条例で定める施設

店舗型性風俗特殊営業の場合は、保全対象施設の敷地周囲200m以内が営業禁止地域となります。
風俗営業許可と比較して厳しくなっており、緩和措置もありません。

最後に

保全対象施設の調査は風俗営業を始める際には必ず行う必要があります。
許可申請の段階で保全対象施設の存在が発覚してしまうと大きな損害となる可能性があるからです。
しかし、保全対象施設に関する法令は改正も多く、社会情勢の影響を受けやすいものです。
常に最新情報にアップデートして調査する必要があります。
弊所では調査のみのご依頼も承っております。
風俗営業を開業するための立地や営業所の拡張などをお考えの際はお気軽にご相談ください。

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