デリバリーヘルス(以下、デリヘル)と聞いて風俗だねと思われる方も多いのではないでしょうか。
しかし、厳密にいうとデリヘルは風俗営業ではありません。
デリヘルは風営法において性風俗特殊営業の「無店舗型性風俗特殊営業」という営業になります。
ソープランドやファッションヘルスといった店舗型の性風俗店は厳しい規制のため減少傾向です。
反対に、無店舗型性風俗特殊営業は年々増加しています。
要因としては店舗が必要ないこと、性風俗営業のような厳しい規制がないことが大きいと思います。
しかし、デリヘルなどの無店舗型性風俗店の開業にあたって注意すべきポイントは意外と多くあります。
これからデリヘル等の開業を考えている方の一助になれば幸いです。
無店舗型性風俗特殊営業
風営法では無店舗型性風俗特殊営業として以下の2つの営業を規定しています。
1.の類型がいわゆるデリヘルと呼ばれる営業を想定しています。
- 派遣型のファッションヘルス (風営法2条7項1号の営業)
- アダルトビデオ等の通信販売 (風営法2条7項2号の営業)
この法律において「無店舗型性風俗特殊営業」とは、次の各号のいずれかに該当する営業をいう。
一 人の住居又は人の宿泊の用に供する施設において異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務を提供する営業で、当該役務を行う者を、その客の依頼を受けて派遣することにより営むもの
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第2条7項1号
デリヘルとは、異性の従業員をホテルや自宅に派遣して、性的サービスを提供する営業です。
サービスを提供する場所は持たないため無店舗型性風俗特殊営業といいます。
特定のラブホテルやレンタルルームと提携して、サービスを提供すると店舗型性風俗特殊営業に該当する可能性があるので注意が必要です。
また、メンズエステにおいても、性的なサービスを提供するためにデリヘルとして届出をするケースも増えています。
オナクラやリフレといったソフトサービスとされる営業であっても名称の問題ではなく、以下の要件に該当すれば無店舗型性風俗特殊営業に該当することはあります。
人の住居又は人の宿泊の用に供する施設
人が通常生活を送るための家屋等が「人の住居」に当たります。
一時的に使用している場合でも該当するので、マンスリーマンションやキャンピングカーなどの車両でも住居に当たります。
一方、「宿泊の用に供する施設」とは、通常のホテルや旅館、ラブホテルやレンタルルームといった店舗型性風俗特殊営業の対象となる施設のことをいいます。
異性の客
異性の客に対するサービスである必要があります。
つまり、同性向けのサービスであれば無店舗型性風俗特殊営業には該当しません。
性的好奇心に応じて
客の性的感情に応えることが要件です。
そのため、通常のマッサージなどは、客に接触しても無店舗型性風俗特殊営業には該当しません。
派遣する
客にサービスを提供する者を遣わすことですが、待ち合わせをした上で、人の住居又は人の宿泊の用に供する施設に行った場合でも派遣に該当します。
公安委員会への届出
デリヘル等を開業するためには、営業を開始する10日前までに営業の本拠となる事務所を管轄する公安委員会(警察)に届出をする必要があります。
営業の本拠となる事務所とは、複数の事務所がある場合の中枢となる事務所のことです。
風俗営業や特定遊興飲食店営業は許可申請となりますが、無店舗型性風俗特殊営業は届出です。
これは、健全な娯楽を提供する風俗営業に対して、性風俗営業は本質的に不健全とされ、国が積極的にお墨付きを与えたくないからといわれます。
届出事項
公安委員会に届け出る事項は以下の通りです。
別記様式第25号という書類に記載して届け出ます。
こちらは様式が定められており、警察署のHPからダウンロード可能です。
- 氏名又名称及び住所 法人の場合は代表者氏名
- 広告宣伝をする場合に使用する呼称(複数ある場合はすべて)
- 事務所の所在地
- 無店舗型性風俗営業の種別 (デリヘルか通信販売か)
- 客の依頼を受ける方法
- 客の依頼を受けるための電話番号その他の連絡先
- 受付所、待機所を設ける場合はその旨及び所在地
営業所ごとの届出
無店舗型性風俗特殊営業は営業所ごとの届出となります。
例えば事務所が一つで複数のサイトを運営している場合、事務所を管轄する警察署だけに届出をしておけば問題ありません。
ただし、運営するすべてのサイトのURLを届出書に記載する必要があります。
インターネットで広告を行う場合
ホームページからお客さんの依頼を受ける場合はサイトのURLが必要です。
届出時に完成している必要はありませんが、ドメインは取得しておかなければなりません。
ただし、届出から10日後でないと営業はできませんのでサイトは工事中などにしておきましょう。
届出に必要な添付書類
無店舗型性風俗特殊営業を始めるためには以下の種類を提出する必要があります。
- 営業の方法を記載した書類(別記様式第28号)
- 事務所の使用について権原を有することを疎明する書類
(使用承諾書・賃貸契約書の写し・建物に係る登記事項証明書など) - 住民票(本籍記載のもの。外国人にあっては国籍記載のもの)の写し
- 法人の場合は、定款・法人登記事項証明書及び役員全員の住民票(4に同じ)
- 事務所の平面図
法人の場合、定款の事業目的には無店舗型性風俗特殊営業の記載が望ましいのですが、銀行の融資や補助金等を考慮してエステ事業など直接的な表現を避けたほうが無難です。
待機所を設ける場合の追加書類
- 待機所の平面図
- 待機所の使用について権原を有することを疎明する書類
(使用承諾書・賃貸契約書の写し・建物に係る登記事項証明書など)
受付所を設ける場合の追加書類
- 受付所の平面図、周囲の略図
- 受付所の使用について権原を有することを疎明する書類
(使用承諾書・賃貸契約書の写し・建物に係る登記事項証明書など)
事務所の使用について権原を有することを疎明する書類
無店舗型性風俗特殊営業は受付所を設置しない限り、立地制限はありません。
どんな場所でも事務所と待機所を設置することは可能です。
ただし、届出の際の添付書類として事務所又は待機所を使用する権限を疎明する書類を添付しなければなりません。
使用承諾書
使用承諾書とは、事務所の使用権原を持つ者から「無店舗型性風俗特殊営業をしてもよい」という承諾があることを証する書類です。
通常、賃貸借契約書に風俗営業OKという文言が入っていることは稀です。
そのため、「事務所を貸したが性風俗特殊営業をするなんて思っていなかった」というトラブルが起こりがちです。
原則として使用承諾書は、建物の所有者→営業者(賃借人)に対してとなります。
所有者が複数いる場合はすべての所有者からの承諾が必要となります。
また、登記簿上の所有者と賃貸借契約書の賃貸人が異なるケースがあります。
転貸借が絡んでいることが多いのですが、この場合は以下の承諾が必要です。
所有者→営業者
賃貸人→営業者
ただし、管轄の警察署によっては追加書類を求められることもあります。
必ず届出前に確認しておきましょう。
性風俗営業というと建物の使用を拒否する建物の所有者は少なくありません。
そのため、使用承諾書がもらえる物件を確保することが開業のハードルとなりがちです。
風俗営業が可能な物件に関しては弊所でもご協力は可能ですのでご相談ください。
賃貸借契約書
事務所を賃貸する場合は通常、賃貸借契約書を締結します。
契約書上の賃貸人と賃借人が所有者と申請者であれば事務所の使用権原は認められます。
しかし、なんらかの事情で一致しないケースはよくあります。
そのような場合は建物の使用に関する権利関係をすべて整理する必要があります。
よくあるケースとしては、転貸借(サブリース)、「申請者は法人だが契約は個人」といったところです。
また、登記事項証明書における所有者の住所と賃貸借契約書上の住所が一致しているかも確認します。
一致していなかった場合は原因を究明して対応する必要があります。
登記事項証明書
登記事項証明書は建物の所有者を明確にするために提出する必要があります。
何かトラブルや事故があった際に所有者が明確でないと責任の所在が曖昧になってしまうからです。
そのような事態を予防するため、登記事項証明書で所有者を明確にします。
登記事項証明書はどこの法務局でも誰でも取得可能です。(手数料はかかります)
今はオンライン申請が可能で手数料も安く、発行の待ち時間もないのでおすすめです。
登記・供託オンライン申請システム
届出の要件
風俗営業の場合は、人と場所、お店の構造に対する要件があります。
しかし、無店舗型性風俗特殊営業にはありません。
原則的には誰でもどんな場所でも営業することが可能で。
また、営業時間の規制もないため、24時間営業も可能です。
ただし、受付所を設置する場合は、立地制限と営業時間の制限があるので、都道府県の条例を確認する必要があります。
申請者が外国人の場合
外国人の方でも申請は可能です。
ただし、申請者となれる適切な在留資格を有している必要があります。
具体的には永住者、特別永住者、定住者、日本人の配偶者、永住者の配偶者等となります。
経営・管理ビザは、申請者にはなれますが、すべての業務ができるわけではありません。
法人の場合は役員や従業員の在留資格も確認しておきましょう。
受付所
平成17年に風営法が改正され、お客さんにサービス内容の説明をし、写真などを見せて依頼を受ける場所である受付所の設置が規制されました。
平成17年改正の内容はこちら→「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に基づく許可申請書の添付書類等に関する内閣府令改正試案」等に対する意見の募集結果について
この改正により、受付所営業に対しては店舗型性風俗店に対する規制事項が準用されることになりました。
- 禁止区域の指定
- 条例への禁止地域指定の委任
- 既得権
- 営業時間の制限
- 18歳未満立入禁止の表示
- 客引き行為等の規制
- 受付所での20歳未満の者への酒類、たばこの提供
都道府県の条例で定められる事項
風営法28条の準用を受けて、受付所に対して都道府県の実情に応じて禁止地域の指定と営業時間が規制されています。
関東近郊の都道府県で受付所営業が禁止される地域と営業可能時間は下記の通りです。
条例の規定を確認する限り、新規で受付所を設けて無店舗型性風俗特殊営業を営業することはかなり難しいでしょう。
また、既得権などで受付所を設置して営業している場合でも午前0時以降は受付所営業ができないため、デリバリーのみといった営業になります。
待機所
待機所とは、派遣するキャストを一時的に待機させておく施設や区画された部分のことです。
マンションの部屋をいくつか賃貸して設置することや、事務所を間仕切りなどで区切って待機所としていることが一般的です。
待機所は受付所と違い、客の出入りがないため立地制限はありません。
ただし、待機所を設置した場合、店舗型性風俗として使用されるおそれのあることから、必ず立入り検査が入ると思っていたほうがよいでしょう。
そのため、届出の際に提出する図面や配置図は正確なものを提出しておく必要があります。
営業するにあたり注意すること
公安委員会に届出をしてから10日後には営業することが可能となります。
届出確認書が交付されたら事務所に備え付け、関係者から請求があったときはすぐに提示できるようにしておきましょう。
広告宣伝の規制
無店舗型性風俗特殊営業は、広告宣伝を規制する風営法28条5項が準用されます。
店舗型性風俗特殊営業を営む者は、前条に規定するもののほか、その営業につき、次に掲げる方法で広告又は宣伝をしてはならない。
一 次に掲げる区域又は地域(第三号において「広告制限区域等」という。)において、広告物(常時又は一定の期間継続して公衆に表示されるものであつて、看板、立看板、はり紙及びはり札並びに広告塔、広告板、建物その他の工作物等に掲出され、又は表示されたもの並びにこれらに類するものをいう。以下同じ。)を表示すること。
イ 第一項に規定する敷地(同項に規定する施設の用に供するものと決定した土地を除く。)の周囲二百メートルの区域
ロ 第二項の規定に基づく条例で定める地域のうち当該店舗型性風俗特殊営業の広告又は宣伝を制限すべき地域として条例で定める地域
二 人の住居にビラ等(ビラ、パンフレット又はこれらに類する広告若しくは宣伝の用に供される文書図画をいう。以下同じ。)を配り、又は差し入れること。
三 前号に掲げるもののほか、広告制限区域等においてビラ等を頒布し、又は広告制限区域等以外の地域において十八歳未満の者に対してビラ等を頒布すること。
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第28条5項
受付所の設置が規制される禁止区域と禁止地域では、ビラの配布、看板の設置などの広告宣伝行為はできません。
ほとんどの地域が広告宣伝禁止地域となるので、インターネットやSNSを使用した広告宣伝が主なものとなります。
また、届け出た営業以外の広告宣伝もできませんので、広告サイトを活用する際には届出確認書の提示が求められます。
18歳未満の者の扱い
無店舗型性風俗特殊営業では、18歳未満の者をキャストとして接客業務に従事させることも、お客とすることもできません。
無店舗型性風俗特殊営業を営む者は、その営業に関し、次に掲げる行為をしてはならない。
一 十八歳未満の者を客に接する業務に従事させること。
二 十八歳未満の者を客とすること。
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第31条の3第3項
疑わしいと感じたら免許証等で年齢を確認する必要があります。
従業者名簿の管理
無店舗型性風俗特殊営業を開始した後も注意することがあります。
風俗営業や性風俗特殊営業を営んでいる場合は従業者名簿を管理しておく必要があります。
性風俗特殊営業は届出となるので、風俗営業許可のように実地検査は行われません。
しかし、後日立入検査があったときに真っ先に確認されるのは従業者名簿です。
また、届出事項に変更があった場合は、変更の日から10日以内に変更届の提出が必要です。
最後に
デリヘルなどは、店舗型性風俗店と比較すると届出の要件や規制は緩いといえます。
しかし、それによって警察のチェックも緩いということではありません。
むしろ、歴史的に風俗営業よりも犯罪行為の温床となりやすいことから警察は無店舗型性風俗特殊営業の届出に対しては慎重に審査しています。
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