「ラブホテル」といえば人目を避けるようにホテルに入り、無人のフロントでタッチパネルを操作して誰にも会わずにすべてが完了するというのが従来のイメージではないでしょうか。
ところが最近では、ラブホテルといってもコンセプトを定めたおしゃれな外観にオープンなフロント、女子会利用や充実したアメニティなどで若者に人気のホテルが多くあります。
また、昔ながらのラブホテルが改装され、現代風に洗練されたホテルに生まれ変わるケースも多くあります。若しくは、インバウンドの回復もあり民泊に活用するケースもあります。
しかし、ラブホテルは構造や設備によっては風営法の規制対象となります。
ラブホテルを改装したり新しく建てるためにはどのような規制があるのでしょうか。
風営法上のラブホテルとは
ラブホテルといっても宿泊料金を徴収して人を宿泊させる以上は旅館業法の適用を受けます。
つまり、ビジネスホテルや温泉旅館などと同様に旅館業法の許可を受ける必要があります。
その上で風営法の規定に抵触する場合はラブホテルとして規制されます。
ラブホテルの要件
実は風営法ではラブホテルという言葉は一切出てきません。
下記の2条6項4号の要件に該当するホテルが、一般的なラブホテルとなります。
専ら異性を同伴する客の宿泊(休憩を含む。以下この条において同じ。)の用に供する政令で定める施設(政令で定める構造又は設備を有する個室を設けるものに限る。)を設け、当該施設を当該宿泊に利用させる営業
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第2条6項4号
「風営法上のラブホテル」となるためには、3つの要件があり、すべてを満たしたホテルだけが風営法の規制を受けます。
- 専ら異性を同伴する客の宿泊(休憩含む)の用に供する施設
- 政令3条1項で定める施設 (施設要件)
- 政令3条2項又は3項で定める構造又は設備を設ける施設 (構造要件、設備要件)
1.と2の要件を満たした上で3.の構造要件か設備要件を満たすと、ラブホテルとして風営法の規制対象となります。
専ら異性を同伴する
専らとは7割ないし8割程度のことをいいますので、ビジネスホテルや通常の旅館などがラブホテルに該当することはありません。
つまり、7~8割の客が特定の目的を持ったカップルであるホテル、旅館等が該当します。
政令3条の規定
政令とは「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行令」のことで、第3条で具体的な要件が規定されています。
やや時代遅れな文言も目立ちますが、ラブホテル特有の匿名性や隔離性を規制しています。
(法第二条第六項第四号の政令で定める施設等)
第三条 法第二条第六項第四号の政令で定める施設は、次に掲げるものとする。
一 レンタルルームその他個室を設け、当該個室を専ら異性を同伴する客の休憩の用に供する施設
二 ホテル等その他客の宿泊(休憩を含む。以下この条において同じ。)の用に供する施設であつて、次のいずれかに該当するもの(前号に該当するものを除く。)
イ 食堂(調理室を含む。以下このイにおいて同じ。)又はロビーの床面積が、次の表の上欄に掲げる収容人員の区分ごとにそれぞれ同表の下欄に定める数値に達しない施設
ロ 当該施設の外周に、又は外部から見通すことができる当該施設の内部に、休憩の料金の表示その他の当該施設を休憩のために利用することができる旨の表示がある施設
ハ 当該施設の出入口又はこれに近接する場所に、目隠しその他当該施設に出入りする者を外部から見えにくくするための設備が設けられている施設
ニ フロント、玄関帳場その他これらに類する設備(以下この条において「フロント等」という。)にカーテンその他の見通しを遮ることができる物が取り付けられ、フロント等における客との面接を妨げるおそれがあるものとして国家公安委員会規則で定める状態にある施設
ホ 客が従業者と面接しないで機械その他の設備を操作することによつてその利用する個室の鍵の交付を受けることができる施設その他の客が従業者と面接しないでその利用する個室に入ることができる施設
2 法第二条第六項第四号の政令で定める構造は、前項第二号に掲げる施設(客との面接に適するフロント等において常態として宿泊者名簿の記載、宿泊の料金の受渡し及び客室の鍵の授受を行う施設を除く。)につき、次の各号のいずれかに該当するものとする。
一 客の使用する自動車の車庫(天井(天井のない場合にあつては、屋根)及び二以上の側壁(ついたて、カーテンその他これらに類するものを含む。)を有するものに限るものとし、二以上の自動車を収容することができる車庫にあつては、その客の自動車の駐車の用に供する区画された車庫の部分をいう。以下この項において同じ。)が通常その客の宿泊に供される個室に接続する構造
二 客の使用する自動車の車庫が通常その客の宿泊に供される個室に近接して設けられ、当該個室が当該車庫に面する外壁面又は当該外壁面に隣接する外壁面に出入口を有する構造
三 客が宿泊をする個室がその客の使用する自動車の車庫と当該個室との通路に主として用いられる廊下、階段その他の施設に通ずる出入口を有する構造(前号に該当するものを除く。)
3 法第二条第六項第四号の政令で定める設備は、次の各号に掲げる施設の区分ごとにそれぞれ当該各号に定めるものとする。
一 第一項第一号に掲げる施設 次のいずれかに該当する設備
イ 動力により振動し又は回転するベッド、横臥している人の姿態を映すために設けられた鏡(以下このイにおいて「特定用途鏡」という。)で面積が一平方メートル以上のもの又は二以上の特定用途鏡でそれらの面積の合計が一平方メートル以上のもの(天井、壁、仕切り、ついたてその他これらに類するもの又はベッドに取り付けてあるものに限る。)その他専ら異性を同伴する客の性的好奇心に応ずるため設けられた設備
ロ 次条に規定する物品を提供する自動販売機その他の設備
ハ 長椅子その他の設備で専ら異性を同伴する客の休憩の用に供するもの
二 第一項第二号に掲げる施設 同号イからハまでのいずれかに該当する施設にあつては次のイに、同号ニ又はホに該当する施設にあつては次のロに該当する設備
イ 前号イ又はロに掲げる設備
ロ 宿泊の料金の受払いをするための機械その他の設備であつて、客が従業者と面接しないで当該料金を支払うことができるもの
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行令第3条
3条1項の施設要件
政令3条1項の施設とは、1項1号で規定されるレンタルルームと、1項2号イ~ホのいずれかに該当するホテル、旅館等のことになります。
レンタルルームに関しては、下記のリンクをご確認ください。
- 食堂又はロビーの床面積が別表の数値に達しない施設 (2号イ)
- 施設の外周に料金の表示がある施設 (2号ロ)
- 出入口に目隠しのある施設(わかめ等) (2号ハ)
- フロントの見通しを遮断するものがある施設 (2号二)
- 従業員と会わずに個室が利用できる施設 (2号ホ)
いずれの要件もラブホテルを見たり利用したことがある方ならイメージが湧きやすいかと思います。
通常のホテルや旅館では該当することのないラブホテル特有のものです。
政令3条の構造又は設備
ラブホテルとされるには、上記の設備要件に加えて構造要件か設備要件のいずれかを満たす必要があります。
3条2項の構造要件
構造要件はモーテル要件ともいわれます。
本来モーテルとは、自動車を利用する人のための宿泊施設です。
そのため、部屋ごとに専用の出入り口がある構造になっています。
このような構造は人目につかずに個室に出入りすることが可能です。
犯罪の温床になりやすいことや、連れ込みとして利用しやすいことから規制された歴史があります。
3条2項は、そのようなモーテル特有の構造を有するホテルが該当します。
3条3項の設備要件
下記のような設備を有していることが要件となります。
すべての個室に設置してある必要はなく、1室でも設置してあれば該当します。
- 回転ベッド、特定用途の1㎡以上の鏡、SM器具など
- アダルトグッズの自動販売機
- 自動精算機やエアシューター
回転ベッドやエアシューターなど、今となってはほとんど見ることのない設備です。
しかし、通常のホテルや旅館で設置されていることは非常に稀です。
ラブホテルに該当するには
「政令で定める施設」であっても、「政令で定める設備」を設置していなければ風営法上のラブホテルとはなりません。逆の場合も同様です。
また、モーテルではないホテルや旅館が風営法上のラブホテルに該当するか否かは、施設と設備の組み合わせによって決まります。
逆にいえば上記以外の組み合わせであればラブホテルには該当しません。
ラブホテルに対する規制
上記の要件に該当してラブホテルとされると風営法の規制対象となり、公安委員会(警察)に対して、店舗型性風俗特殊営業4号営業の届出が必要となります。
店舗型性風俗特殊営業は風俗営業とは違い、人的要件と営業所の構造的要件はありません。
しかし、厳しい立地制限があります。
また、広告宣伝の規制、客引き行為等の禁止、18歳未満の者の入場の禁止など様々な規制を受けることになります。
禁止区域
立地制限として風営法28条で禁止区域が規定されています。
下記で指定されている区域ではラブホテルは営業してはいけません。
店舗型性風俗特殊営業は、一団地の官公庁施設(官公庁施設の建設等に関する法律(昭和二十六年法律第百八十一号)第二条第四項に規定するものをいう。)、学校(学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定するものをいう。)、図書館(図書館法(昭和二十五年法律第百十八号)第二条第一項に規定するものをいう。)若しくは児童福祉施設(児童福祉法第七条第一項に規定するものをいう。)又はその他の施設でその周辺における善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害する行為若しくは少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止する必要のあるものとして都道府県の条例で定めるものの敷地(これらの用に供するものと決定した土地を含む。)の周囲二百メートルの区域内においては、これを営んではならない。
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第28条1項
風俗営業の場合は、保全対象施設の周囲100mなので店舗型性風俗特殊営業の規制は非常に厳しいといえます。
また、条例で上記以外の施設を保全対象施設として指定することもできます。
例えば東京都では、条例で定めるその他の施設として病院及び診療所が指定されています。
禁止地域
禁止地域に加え、都道府県の条例で地域を定めて禁止地域を指定することもできます。
例えば東京都では、ラブホテルの禁止地域として下記の地域が指定されています。
政令3条2項の構造を有する施設(モーテル)
1 新宿区のうち、歌舞伎町一丁目(2番から29番まで)、新宿二丁目(6番、11号、12番及び16番から19番まで)及び新宿三丁目(2番から13番まで)の地域
2 台東区千束四丁目(16番から32番まで及び41番から48番まで)の地域
3 豊島区西池袋一丁目(18番から44番まで)の地域
以外の地域
政令3条3項の設備を有する施設
近隣商業地域及び商業地域(第一種文教地区および第二種文教地区に該当する部分を除く。)以外の地域
ラブホテル条例
都道府県の条例の規制で十分でない場合には、市町村や特別区で独自に条例が制定されることもあります。
「ラブホテル」と名指しした条例であることが多く、ラブホテルとなる要件が厳しく規定されていることがあります。
都道府県の条例だけでなく、開業予定の地域で条例が制定されていないかということも確認しておく必要があります。
しかし、渋谷区ラブホテル建築規制条例のように、厳しすぎる規制は一般の宿泊施設の減少を招くこともあるようです。
改築や建て替え
ラブホテルの施設が老朽化してきたので、改築や建て替えを行おうと思っても自由にはできません。
下記の行為を行い、営業所の同一性が失われたと判断されれば、あらためて新規で届出を行う必要があります。
・建物の新築又は移築
・建物の床面積が従前の2倍を超えることとなる増築
・建物内の客の用に供する部分の改築
(解釈運用基準第12-3)
事後的に禁止区域や禁止地域となっている場合は、新たに届出を行っても受理されません。
そのため、建物のリニューアル等を行う場合は管轄の警察署への事前確認が必須となります。
既得権の消滅
ラブホテルは、法律の制定前から営業をしていて所定の届出を行っている場合は、立地制限の対象から除外される既得権が認められています。
ただし、既得権は下記の事由があると消滅して、営業が継続できなくなってしまいます。
- 営業主体の交代
- 営業の種別の変更
- 営業所の移転、新築、増築等
店舗型性風俗特殊営業には相続や法人の合併、分割による承継制度がありません。
つまり、個人で営業している場合は、1代限りでの営業しか認められていません。(法人の場合は事業承継が認められる方法もあります)
また、既得権の消滅事由で最も気を付ける点は、3.の営業所の移転、新築、増築等に関する事項です。
営業所の移転は当然の事由ですが、新築、移築、増築等に関しては下記の行為が該当するとされています。
- 営業所の建物の新築、移築又は増築
- 営業所の種別に応じた営業所内の改装 (ラブホテルは個室)
- 営業所の建物につき行う大規模の修繕若しくは大規模の模様替え又はこれらに準ずる程度の間仕切りの変更
- 営業所の建物内の客の用に供する部分の床面積の増加
- 営業の種別又は種類の変更(ストリップ劇場をのぞき劇場にする場合等)
その他、外壁や店内の塗装、模様替えについても既得権の消滅事由となる可能性があるので、事前に警察のの確認を取っておくほうがよいでしょう。
公安委員会への届出
風営法上のラブホテルとして営業するには公安委員会への届出が必要です。
届出は、営業を開始しようとする10日前までに営業所(ホテル)の所在地を管轄する警察署に行います。
届出事項
公安委員会に対して、店舗型性風俗特殊営業営業開始届出書(別記様式第17号)で下記の5つの事項を届け出る必要があります。
- 氏名又は名称及び住所 法人の場合は代表者の氏名
- 営業所の名称及び所在地
- 店舗型性風俗特殊営業の種別
- 営業所の構造及び設備の概要
- 統括管理者の氏名及び住所
届出に必要な書類
さらに添付書類として下記の書類を用意する必要があります。
- 営業の方法を記載した書類(別記様式第20号)
- 営業所の使用について権原を有することを疎明する書類(使用承諾書・賃貸契約書の写し・建物に係る登記事項証明書など)
- 営業所の平面図及び営業所の周囲の略図(200m)
- 住民票(本籍記載のもの。外国人にあっては国籍記載のもの)の写し
- 法人の場合は、定款・法人登記事項証明書及び役員全員の住民票(5に同じ)
- 業務の実施を統括管理する者に係る住民票(5に同じ)
最後に
ラブホテルを新規で建てようと考えた場合は非常に厳しいハードルがあるといえます。
既存の施設を利用して増築や改装をするにしてもすべてが認められるとは限りません。
最新の統計による届出数をみてもラブホテルは、この5年間で500件以上減少しています。
しかし、冒頭でも書いたように旧来のラブホテルのイメージにとらわれない新しいホテルとして生まれ変わる事例も増えています。
もちろん昔ながらのラブホテルを求める層も一定数存在します。
弊所では旅館業許可から風俗営業許可まで対応できますのでお気軽にご相談ください。
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