軽井沢といえば日本を代表するリゾート地です。
都心からのアクセスも良く、豊かな自然やアウトレットなどの買い物も楽しめる観光スポットです。
そんな日本有数の別荘地である軽井沢で民泊が営業できれば非常に魅力的です。
しかし、軽井沢町で登録されている民泊施設は多くありません。(住宅宿泊事業法の届出施設)
また、ネットやSNSを見ると「軽井沢で民泊はできない」「民泊の届出禁止」といったワードが並びます。
はたして本当に軽井沢で民泊はできないのでしょうか。

民泊とは

民泊とは一般的に下記の3つの形態で行われるものをいいます。

  • 住宅宿泊事業法に基づく届出(以下、民泊新法)
  • 旅館業許可を受ける
  • 特区民泊

軽井沢地区は特区民泊の対象ではありません。
そのため、民泊を行うには民泊新法の届出を行うか、旅館業許可を受ける必要があります。

民泊新法の届出

軽井沢町は、民泊施設等の取扱基準というものを定めています。
その中で「民泊施設(貸別荘を除く)は、町内全域において認めない」といった記載があります。
しかし、民泊新法における許可の権限は都道府県知事(保健所設置市、特別区)にあります。
市町村に届出を認めないといった権限があるわけではありません。
実際に軽井沢町を管轄する保健所は、民泊の届出を拒否することはできません。
つまり、軽井沢町の取扱基準における「民泊の届出は認めない」といった方針に法的な拘束力があるわけではありません。

条例による上乗せ規制

長野県では民泊に関して条例及び規則が制定されています。
この条例及び規則において、軽井沢地区は繁忙期である5、7、8、9月で民泊営業が規制されています。
また、住居専用地域では月曜から金曜までの期間も営業が規制されます。
軽井沢町では用途地域が定められている地域の80%近くが住居専用地域(第一種低層住居専用地域)です。
住宅のある地域の大半では年間32日程度しか民泊として営業できません。
つまり、民泊新法での営業は、届出は可能だが、実質的にはできないといっても過言ではありません。

旅館業許可

民泊新法では実質的に営業ができないなら旅館業許可はどうでしょうか。
旅館業の許可を受ければ条例や規則の規制を受けることなく、365日の営業が可能です。
ただし、前述の通り、軽井沢ではほとんどの地域が第一種低層住居専用地域です。
旅館業許可は、そもそも第一種低層住居専用地域では許可を受けることができません。
つまり、旅館業許可を受けることのできる地域が非常に少ないということです。
また、軽井沢町の民泊施設等の取扱基準で下記の通り定められています。

民泊施設とは、以下に示すものをいう。
1.旅館業法において認可され営業する簡易宿所のうち、旅館業法施行令の一部を改正する政令により床面積の規定が緩和されたことにより生じるもの。

軽井沢町 民泊施設等の取扱基準

平成28年に旅館業法施行令が改正されるまでは、簡易宿所は33㎡以上の客室延面積が必要でした。
しかし、小規模な施設でも簡易宿所として営業ができるように緩和されました。
つまり、このような小規模な施設は、旅館業許可を受けても民泊ができないことになります。
ただし、「民泊施設等の取扱基準」は、軽井沢町が独自に定めた基準です。
法的拘束力があるわけではないので、あくまでお願いベースということになります。
旅館業許可の要件に合致していれば保健所は申請を拒否することはできません。

軽井沢での旅館業許可の手続き

住居専用地域以外であれば、立地的には旅館業許可を受けることは可能です。
旅館業法に基づく許可は、旅館・ホテル、簡易宿所、下宿営業の3つの形態があります。
一般的に民泊を行う場合は下記のいずれかとなります。

旅館・ホテル・・・一般的なホテル、一棟貸の一軒家など
簡易宿所・・・多人数で宿泊する場所を共有する施設

旅館・ホテルの場合は玄関帳場(フロント)の設置が必要となります。
対して簡易宿所にフロント設置義務はありません。(軽井沢町の条例では原則設置を求められます)
長野県では、宿泊者が必ず通る場所にデスクを設置するだけでもフロントとして認められるケースもあります。
また、ICT機器等を使用してフロントの代替施設とすることも可能です。
長野県における旅館・ホテルと簡易宿所の主な相違点は下記の通りです。

旅館・ホテル簡易宿所
玄関帳場(フロント)設置義務原則あり(代替可能)なし
定員宿泊室面積 4.5㎡あたり1人宿泊室面積 2.5㎡あたり1人
その他ベッドのない場合の定員は
宿泊室面積3.3㎡あたり1人
2段ベッド等は、幅0.9m以上、長さ1.8m以上
長野県 旅館業法施行条例より
消防法、建築基準法への対応

その他、消防法、建築基準法の規定をクリアしておく必要もあります。
旅館業許可は、用途が「旅館等」となるので原則的には自動火災報知機、誘導灯、消火器、防炎物品を設置しなければなりません。
建物の面積によっては、小規模施設用自動火災報知機等、費用を抑えることができる設備が設置可能なケースもあります。
消防法の規定に合致している証明として「消防法令適合通知書」を取得しなければなりません。

また、建築確認済証などの書類の提出が求められますので事前に準備しておきましょう。

土地利用協議

軽井沢町では「軽井沢町の自然保護のための土地利用行為の手続等に関する条例」が制定されています。
町内で一定の行為を行う場合は、この条例に基づき軽井沢町と土地利用協議を行わなければなりません。

軽井沢町との協議が必要な行為(条例第7条)
  • 3区画以上の土地の分譲又は分割
  •  土地の区画の再分割
  • スポーツ若しくはレクリエーション施設の設置又は変更
  • 建築物又は工作物の新築、増築、改築若しくは移転
  • 建築物の用途の変更
  •  飲食物の提供又は興行その他これらに類する行為
  • 廃棄物に係る施設、資材置場若しくは路外駐車場の設置又は変更
  • 墓地、納骨堂、葬祭場、火葬場その他これらに類する施設の設置又は変更
  • 土地の形質変更及び埋立て
  • 地下水又は温泉の採取を目的とする土地の掘削
  • 木材の伐採(300㎡以上又は山の輪郭線を変更するもの)
  • その他町長が必要と認める事業

旅館業許可を受けるには、建物の用途が旅館等である必要があります。
例えば既存の住宅を旅館に転用する場合は、住宅から旅館等に用途を変更しなければなりません。
建物の用途の変更は、上記の行為に該当するため、土地利用協議が必要となります。
しかし、旅館業許可の要件に土地利用協議を経るという規定はありませんので、この手続きも法的な拘束力はありません。
ただし、旅館業許可申請を行う際に保健所から軽井沢町に対して協議の有無の確認がとられます。
もし土地利用協議を行っていない場合は、ここで申請が滞ってしまう可能性があります。
軽井沢町で長く旅館を営業していこうと考えた場合、町で定めたルールに従うことは大切です。
なぜなら円滑に旅館業を営業するには行政機関との連携が不可欠となるからです。

土地利用協議手続きの流れ

土地利用協議の手続きは、旅館業許可の手続きに先立って行う必要があります。
手続きの流れは、概ね下記の通りです。
本協議が完了して協議終了確認書の発行まで、通常2~3カ月かかります。

協議書類の提出(仮協議)
所定の協議書に加え、誓約書、図面、事業概要書、公図、現況写真など多岐にわたる書類が必要です。まずはドラフトとして提出します。
町からの修正依頼の対応
協議書等を提出すると軽井沢町から意見や修正依頼が入ることがあり、すべてに対応する必要があります。
近隣説明
修正が完了したら、敷地の周囲50m以内の近隣土地所有者等へ説明をしなければなりません。原則は対面ですが、場合によっては配達証明のある郵送が認められることもあります。
本協議
住民説明が完了したら、修正事項を反映させ、近隣等説明経過書を添付して本申請となります。(正副1部以上)
協議終了
本申請後、関係機関の審査が完了すると協議終了確認書が発行されます。(本申請から2~3週間程度)

貸別荘

民泊にも旅館業に類似する営業として貸別荘という形態があります。
一般的には1カ月以上の期間を定めて1棟まるごと賃貸するものをいいます。
軽井沢地区は別荘地なので、貸別荘は比較的たくさんあります。
ただし、軽井沢町では、貸別荘に対しても取扱基準を定めています。

貸別荘の取扱基準の主なポイント(自然保護対策要綱より)
  • 第一種低層住居専用地域、自然保護協定締結地では営業不可
  • 貸別荘へ用途変更する場合は土地利用協議を行う
  • 町内に常駐する管理者を定める必要がある

あくまで自然保護対策要綱のため、強制力はありませんが民泊と同程度の規制となっています。
つまり、軽井沢町では貸別荘を民泊の抜け道にしないように厳しく規制しています。

軽井沢ルール

軽井沢は別荘地として長い歴史を持っています。
その中で別荘地としての価値を保持するために作られたルールが俗に「軽井沢ルール」と呼ばれています。
軽井沢町が制定した「自然保護対策要綱」に具体的な基準等が制定されています。
例えば、建物の容積率や建ぺい率などが厳しく指定されています。
ただし、あくまで「要綱」なので法律や条令のような法的拘束力はありません。
要綱を守らなかったといって罰則などもありません。
しかし、長く軽井沢町で営業していくためには周辺の住民の方や役所と良好な関係を築いておく必要があります。
軽井沢で民泊を行う場合は、他の地域とは違う独特の風習があると思っておくことが重要です。

最後に

結論として軽井沢で民泊を行うことは可能です。
ただし、様々な規制があるので他の地域と比較してもハードルが高いことは事実です。
逆にいえば民泊の営業が可能であれば大きなチャンスとも考えられます。
軽井沢に限らずですが、民泊を行うには地域によって規制が様々であることを理解しておく必要があります。
しかし、各地でばらばらの規制を一から調べていたら膨大な時間がかかってしまいます。
そんなときは専門家に依頼するのも一つの方法です。
営業を開始するまでの時間も手間の大幅にカットすることが可能です。
弊所では軽井沢に限らず様々な地域で旅館業、民泊申請の経験があります。
民泊を少しでも早く手間をかけずに始めたい方は弊所までご相談ください。

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