コロナ禍の入国制限が緩和されたことによりインバウンド(訪日外国人旅行)が回復してきています。それにともない同様に需要の回復が見込める「民泊」事業ですが、今年の1月に国土交通省令を改正し住宅宿泊管理業者の要件に関して規制緩和するという発表がありました。
2023年度中に省令を改正し、これまで実務経験や不動産系資格が求められていた要件を緩和する内容です。
民泊に関する届出や旅館業許可申請業務は、立地条件の調査や図面作成といった部分で、弊所の主な業務である風俗営業許可申請と親和性が高い業務です。
民泊とは
民泊とは、戸建住宅やマンションなどを旅行者に貸し出すサービスです。2016年頃をピークに急速に増大しましたが、騒音・ゴミ出し問題といった周囲の環境悪化や無許可営業などが問題となったため、2018年6月15日に「民泊新法」と呼ばれる住宅民宿事業法が施行されました。
この法律の施行以降で日本で民泊事業を行うには以下の3つの選択肢から選択することになりました。
- 旅館業法の許可を得る(ホテル・旅館、簡易宿所営業)
- 国家戦略特区の認定を得る(東京都大田区や千葉市など)
- 住宅民宿事業法(民泊新法)の届出を行う
1.の旅館業法の中で、旅館業とは「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」と定義されており、本来このような営業を行うには都道府県知事の許可を受ける必要があります。民泊ももちろんこの定義に該当しますので、旅館業の許可が必要となります。
ですが、3.の民泊新法施行に基づく届出を行えば、旅館業の許可を受けなくても「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」を行うことができます。
(2.の国家戦略特区の認定も旅館業許可は必要ありませんが、地域が限定的です。)
民泊新法における民泊
民泊新法の届出における民泊と、旅館業法の許可を得て行う場合ではいくつかの相違点があります。
- 営業日数は1年間のうち180日(条例で規制あり)
- 住居専用地域でも営業可能(条例で規制あり)
- 建築基準法上の建物の用途は「一戸建て住宅」や「共同住宅」等
- 台所、浴室、トイレ、洗面設備が必要
- 居住要件に該当している
- 消防設備は旅館業法の規定とほぼ同等(緩和措置あり)
営業日数が180日に制限されるのは大きなデメリットですが、一方、用途地域が限定されない点や、床面積が200㎡以上の物件でも建物の用途変更※(使い道の変更)が必要ないことは非常にメリットがあります。
※建物の用途変更で確認申請を行うと、規模にもよりますが一般的に100万前後の費用が発生します。
事業の概要
民泊新法では「住宅宿泊事業者」「住宅宿泊管理業者」「住宅宿泊仲介業者」という3つのプレイヤーが規定されています。それぞれの業者に役割や義務が定められていて、お互いで補完しあいながら民泊事業を行っていくことになります。
住宅宿泊事業者
住宅宿泊事業法第3条第1項の届出をして、実際に住宅宿泊事業を営むホストです。
居室の数が5室を超える場合と、宿泊客があるときに不在にする場合(家主不在型)は、宿泊事業を下記の住宅宿泊管理業者に委託しなければなりません。
住宅宿泊管理業者
住宅宿泊事業者から委託を受けて、清掃や苦情処理などの管理業務を行う業者のことです。
管理業者になるためには、一定の業務経験や資格要件を満たした上で国土交通大臣の登録を受ける必要があります。この登録は5年ごとに更新があります。
住宅宿泊仲介業者
住宅宿泊事業者のために、宿泊サービスの仲介や代理で契約行為などを行う業者のことです。
Airbnbのようなマッチングサイトを運営する事業者が代表例です。
観光庁長官の登録を受ける必要があり、民泊事業法に基づいた届出をした物件のみ取り扱うことができます。旅館業許可であるホテルや旅館の仲介を行う場合には別途、旅館業法に基づく登録が必要です。
住宅宿泊管理業者要件の緩和
現在、住宅宿泊管理業者になるには、以下のいずれかの要件を満たした上で申請する必要があります。
- 住宅の取引又は管理に関する2年以上の業務経験を有する者
- 宅建士の登録を受けていること
- 管理業務主任者の登録を受けていること
- 賃貸不動産経営管理士の登録を受けていること
- 個人の場合の要件を満たす者を雇用すること
- 宅建業免許を受けていること
- マンション管理業者の登録を受けていること
- 賃貸住宅管理業者の登録を受けていること
不動産業者でもないかぎり上記の要件を満たすのは難しいと思います。
しかし、今回の省令の改正では上記の要件を撤廃し、代わりに講習の受講を義務付ける予定とのことです。
関係法令に関する20時間の通信講座と7時間の講義を受ければ、原則誰でも住宅宿泊管理業者として登録できるようになります。
これにより、住宅宿泊管理業者が都市部に集中し地方部まで行き届いていない現状を打破して、全国的な民泊施設の増加を目指しているようです。
最後に
日本の場合は、どちらかというと民泊事業を取り締まるという観点で今まで政策が決定されていた感があります。
民泊新法の届出の場合、1年間の中で半分以下の日数しか営業できないことや、厳しい営業制限を盛り込んだ条例を見ても明らかです。
しかし今はテレワークやワーケーションなどでの利用や、空き家問題の改善に寄与するなど、民泊の新しい活用方法が生まれています。
今回の管理業者登録に関する規制緩和やインバウンドの回復による需要の増大も考えると、民泊需要は回復以上の伸びしろがあるのではないかと思います。
流行りだからと言って安易に手を出して成功するほど甘い世界ではないと思いますが、旅館業許可や民泊に関する申請に関して不明点やご不安のある方は弊所までお気軽にご相談ください。
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