訪日外国人数がコロナ前の7割程度まで回復してきています。
また、円安の影響もあり外国人一人当たりの消費額はコロナ前を上回る勢いです。
それに伴い、民泊に対する需要も増加しているようです。
ただし、東京都では区によって民泊営業の需要や必要な手続きの難易度に幅があります。
例えば墨田区は東京スカイツリーの存在や下町情緒に溢れるため、外国人からの人気が高い街です。
そこで今回は、墨田区において民泊新法の届出で民泊を開始するための手続きを解説します。

民泊とは

民泊とは、戸建住宅やマンションなどを旅行者に貸し出すサービスです。
2016年頃をピークに急速に増大しましたが、騒音・ゴミ出し問題といった周囲の環境悪化や無許可営業などが問題となったため、2018年6月15日に住宅民泊事業法(以下、民泊新法)が施行されました。
この法律の施行により日本で民泊事業を行うには以下の3つの選択肢から選択することになりました。

日本で民泊を行う方法
  • 旅館業法の許可を得る(ホテル・旅館、簡易宿所営業)
  • 国家戦略特区の認定を得る(東京都大田区や千葉市など)
  • 住宅民宿事業法(民泊新法)の届出を行う

墨田区では国家戦略特区の認定を受けることはできません。
そのため、民泊を始めるには旅館業法の許可を受けるか民泊新法の届出が必要となります。

民泊新法における民泊

民泊新法における民泊は「家主居住型」と「家主不在型」の2つのタイプがあります。
「家主居住型」は、宿泊者が滞在中は家主が届出住宅内に居住している必要があります。
つまり、届出者が実際に生活の拠点としている必要があります。
そのため、「家主居住型」は個人での届出が前提となっています。
また、ゲスト滞在中は基本的には外出できません。(1~2時間の外出が認められるケースもあります)
これに対し「家主不在型」はゲスト滞在中に家主が滞在しません。
そのため、設備の維持や清掃などを住宅宿泊管理業者に委託することが義務付けられます。
(住宅管理業者は下記のリンクで解説しています)

また、家主居住型は宿泊室の面積が50㎡以下であれば特別な消防設備は不要です。
費用のかかる消防設備が不要となると費用面でメリットがあります。

民泊新法における民泊の要件

民泊新法における民泊に関して、主に下記の点に注意が必要です。
旅館業許可を受けたホテルや旅館と混同しないようにしましょう。

民泊新法における民泊の主なポイント
  • 営業日数は1年間のうち180日(条例で制限あり)
  • 住居専用地域で営業可能(条例で制限あり)
  • 建築基準法上の建物の用途は「一戸建ての住宅」や「共同住宅」等(ホテルまたは旅館ではない)
  • 台所、浴室、トイレ、洗面設備が必要
  • 居住要件に該当している
  • 消防設備は旅館業法の規定とほぼ同等(緩和規定あり)

営業日数が180日

民泊新法では1年間の営業日数は180日までと決まっています。
毎年4月1日の正午から翌年4月1日正午までの1年間が計算期間となります。
また、正午が基準になることに注意が必要です。
たとえば、正午を過ぎてチェックアウトした場合は過ぎた日も営業日としてカウントされます。
旅館・ホテル営業の場合は営業日数の制限はないため、ここは大きなデメリットです。

住居専用地域でも営業可能

旅館業の許可を受けようとする施設では住居専用地域では営業ができません。
しかし、民泊新法に基づく住居はそもそも建物の用途が一戸建ての住居になります。
そのため、旅館・ホテル営業のように用途地域の制限を受けることはあまりありません。
つまり、民泊を行える用途地域の幅はかなり広いといえます。

建築基準法上の建物の用途

民泊新法で使用する建物の用途は「一戸建ての住宅」や「共同住宅」などになります。
つまり、事務所などで使用してしているスペースを民泊として活用することはできません。
それに対し、旅館・ホテル営業の建物用途は「ホテル又は旅館」である必要があります。

設備要件

設備要件として「台所」、「浴室」、「便所」、「洗面設備」が設置されている必要があります。
これらの設備は、独立している必要はなくユニットバスなどでも該当します。
また、居室に必要な床面積は、宿泊者1人あたり壁芯で計測して3.3㎡です。

居住要件

居住要件として、民泊で使用する住居は下記のいずれかに該当している必要があります。

  • 現に人の生活の本拠として使用されている家屋
    現に特定の者が生活の本拠として利用している家屋
  • 入居者の募集が行われている家屋
    マンションなどで実際の入居者の募集が行わている家屋
  • 随時その所有者、賃借人又は転借人の居住の用に供されている家屋
    生活の本拠ではないが随時利用されている家屋
    例えばセカンドハウスや別荘などです

消防設備

民泊の届出の際には「消防法令適合通知書」が必要となります。
消防法令適合通知書とは、消防署からのお墨付きのようなものです。
しかし、消防法の要件に適合していないと交付申請はできません。
具体的には自動火災報知設備、誘導灯、消火器といった消防設備を適正に設置する必要があります。
ただし、家主居住型で宿泊室が50㎡以下となる場合は「一般住宅」という扱いになります。
この場合は、特定防火対象物ではないので消防法の適用はありません。(住宅用火災警報器は必要)
消防設備の設置は、有資格者による工事等、大きな費用がかかります。
しかし、建物の構造などによっては緩和できることもあります。
こちらはケースバイケースとなるので消防署とよく相談する必要があります。

条例による上乗せ規制

上記は民泊新法による規制ですが、各自治体による上乗せ条例がある場合があります。
条例によって営業時間や営業日数に制限をかける条例が多くあります。
例えば東京23区では下記のような上乗せ規制が制定されています。

千代田区家主居住型か管理者常駐で文教地区、学校周辺地区では制限なし 
その他は金土のみか営業不可
中央区土日のみ営業可能
港区家主居住型は制限なし
家主不在型は住居専用地域と文教地区で制限あり
新宿区住居専用地域では金土日のみ営業可能
文京区住居専用地域と文教地区は金土日のみ営業可能
台東区家主居住型と管理者常駐は制限なし
その他は土日祝、年末年始のみ営業可能
墨田区上乗せ条例なし
江東区土日のみ営業可能
品川区商業地域と近隣商業地域は制限なし
その他は土日のみ営業可能
目黒区金土のみ営業可能
大田区住居専用地域、工業地域は営業不可
世田谷区住居専用地域は土日祝のみ営業可能
渋谷区住居専用地域、文教地区は営業期間の制限あり(要件に該当すれば180日可能)
中野区住居専用地域は金土日祝のみ営業可能
杉並区家主不在型は住居専用地域で金土日祝、祝前日のみ営業可能
豊島区上乗せ条例なし
北区上乗せ条例なし
荒川区土日のみ営業可能
板橋区住居専用地域は金土日祝、祝前日のみ営業可能
練馬区住居専用地域は金土日祝、祝前日のみ営業可能
足立区住居専用地域は金土日祝のみ営業可能(年末年始は営業不可)
葛飾区上乗せ条例なし
江戸川区上乗せ条例なし

同じ東京都内でも民泊営業がしやすい区もあれば、かなり厳しい規制のある区もあります。
今回ピックアップする墨田区は、上乗せ条例がないため、比較的営業しやすいといえます。

墨田区で民泊新法の届出

墨田区で民泊新法による届出を行う場合は、下記の手順を踏む必要があります。

事前相談

届出を行う前に墨田区生活衛生課の窓口で事前相談を受ける必要があります。
相談に行く際には、住宅の図面などを持参すれば適切な説明を受けることができます。
また、他の関係窓口に対する相談についても説明があります。
例えば、騒音や廃棄物の問題は関係部署と相談しておく必要があります。
その他、消防法の適用に関して、住宅の所在地を管轄する消防署への事前相談も必須となります。

周辺住民等への事前周知

届出に先立ち、住居の近隣住民に対して書面等により事前周知を行う必要があります。
周知対象は、事業を行おうとする住居の周辺10m以内の住民等です。
もし、マンションなどの集合住宅があった場合は、居住者全員への周知が必要です。
周知方法は、説明資料を作成してポスティングなどの個別配布等により周知を行います。

周知内容

説明資料には下記の事項が記載されている必要があります。

  1. 施設名称
  2. 所在地
  3. 事業者名及び緊急時連絡先
  4. 周辺住民からの問い合わせの方法等

さらに、実施した事前周知について、日時や意見などの記録を作成しておく必要があります。
この記録は届出の際に必要になります。

届出の方法と必要書類

民泊新法による届出は、「民泊制度運営システム」でオンライン申請が可能です。
また、システムを使用せずに窓口へ書類を持参することも可能です。
届出に必要な書類は下記の通りです。

墨田区で届出に必要な書類(法人)
  1. 届出書
  2. 定款または寄付行為
  3. 法人登記事項証明書
  4. 役員が、破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者に該当しない旨の市町村長の証明書
  5. 住宅の登記事項証明書
  6. 入居者募集の広告その他それを証する書類
  7. 別荘やセカンドハウスに該当する場合は、それを証する書類
  8. 住宅の図面
    ・台所、浴室、洗面設備の位置
    ・間取り、出入口
    ・各階の別
    ・居室、宿泊室、宿泊者の使用に供する部分の求積図
    ・安全確保の措置状況
  9. 賃借人の場合、賃貸人が承諾したことを証する書類 
    転借人の場合、賃貸人及び転貸人が承諾したことを証する書類
  10. 区分所有の建物の場合、規約の写し(規約に定めがない場合は、管理組合に禁止する意思がないことを証する書類)
  11. 管理を委託する場合は、管理業者との契約書面
  12. 欠格事由に該当しないことを誓約する書面
  13. 周辺住民への事前周知を行った旨を証する書類
  14. 事前相談記録書、消防法令適合通知書
  15. 安全確保措置に関するチェックリスト(建築士による作成が望まれる)
個人の場合のみ必要な書類(上記5~11及び13~15は共通)
  1. 届出書
  2. 届出者が、破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者に該当しない旨の市町村長の証明書
  3. 未成年者で法定代理人が法人の場合、登記事項証明書
  4. 欠格事由に該当しないことを誓約する書面

届出が受理されると、届出番号が発番され標識が交付されます。
交付された標識は住宅の玄関やポストなど、見やすい場所に掲示しましょう。

定期報告

墨田区では営業開始後、届出住宅ごとに定期報告が必要となります。
毎年偶数月の15日までに、それぞれの月の前2カ月における下記の事項を報告します。
定期報告書の様式

  1. 届出住宅に人を宿泊させた日数
  2. 宿泊者数
  3. 延べ宿泊者数
  4. 国籍別の宿泊者数の内訳

この報告は「民泊制度運営システム」か書面のいずれかの方法で行う必要があります。

最後に

コロナ禍も落ち着き、訪日外国人の増加によって民泊需要は高まっています。
また、日本では空き家も多く、民泊は一つの解決策ともなりえます。
しかし、民泊を始める場合には民泊新法だけでなく、様々な法令が絡み書類も膨大です。
協議しなければならない関係部署も数多くあります。
また、民泊には今回解説した民泊新法の届出の他に旅館業許可を受ける方法もあります。
旅館業許可を受ければ365日営業することも可能です。
状況によっては旅館業許可の方がメリットがある場合もあります。
もちろん、弊所では民泊新法の届出から旅館業許可まで対応しております。
面倒な手続きは専門家に任せて本業に集中したい方はぜひご相談ください。

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