東京都港区は、民泊施設数が23区で6番目に多い地域です。
六本木や赤坂といった外国人にも人気の高いエリアがあり、高い需要が見込まれます。
しかし、民泊を行うためにはクリアするべき要件が多くあります。
住宅宿泊事業法だけではなく消防法、建築基準法といった他の法令の理解も必要です。
港区で住宅宿泊事業法に基づく民泊を始めるためのポイントを解説します。

住宅宿泊事業とは?

原則として宿泊料を徴収し、人を宿泊させるためには旅館業の許可を受ける必要があります。
しかし、旅館業の例外として住宅宿泊事業法の届出を行うことにより、住宅で人を宿泊させることができるようになります。
これが「民泊」といわれているものです。

住宅とは

住宅宿泊事業法における「住宅」とは下記の要件を満たすものです。

  • 台所・浴室・便所・洗面設備がある
  • 人が居住している(①~③のいずれかに該当)
    ①生活の本拠として使用されている
    ②入居者の募集が行われている
    ③別荘として使用されている
  • 「一戸建て住宅」「長屋」「共同住宅」「寄宿舎」に該当

上記の要件を満たしていれば「住宅」として民泊を営業することが可能です。

居室の床面積

居室とは宿泊者が専有できるスペースのことです。
そのため、家主居住型と家主不在型で異なります。
家主居住型では寝室のみが居室に該当しますが、家主不在型では台所なども含まれることが通常です。
民泊では居室の床面積を宿泊者1人あたり、3.3㎡以上を確保する必要があります。
居室の床面積は内寸で算定するとされています。
これに対し、宿泊室(寝室)と宿泊者が使用する部分の算定方法は壁芯となります。
図面や申請書類を作成するときはこのポイントを覚えておきましょう。

民泊の営業方法

日本の法令では、宿泊料を徴収して人を宿泊させるには下記の3つの方法があります。

  • 住宅宿泊事業法の届出(民泊新法)
  • 国家戦略特区での認定(特区民泊)
  • 旅館業許可を受ける

港区は国家戦略特区に指定されていません。
つまり、民泊新法の届出を行うか旅館業許可を受けなければなりません。

民泊新法と旅館業の違い

旅館業許可は「住宅」を使用しないので厳密には民泊ではないともいえます。
ただし、近年は規制緩和が進んでおり、以前と比べて旅館業許可を受けやすい環境となっています。
旅館業許可の取得が可能であれば検討する価値はあります。

相違点旅館業許可住宅宿泊事業法(民泊新法)
営業可能日数制限なし最大180日(年間)
許認可都道府県知事の許可都道府県(保健所設置市)への届出
営業できる地域住居専用地域では不可住居であれば原則OK
フロント設置義務原則なしなし
消防設備の設置費用多額となることが多い少額となることが多い

民泊営業開始までのハードル

旅館業許可と民泊新法では営業開始までのハードルにも差があります。
旅館業許可で営業する場合は、建物の用途が「旅館・ホテル」になります。
この場合、消防法により消防設備の設置義務が厳しくなります。
一方、民泊新法で営業する場合は「居宅」となるため、特別な消防設備は必要ありません。(延べ床面積によっては必要)
建物の規模にもよりますが、提出書類、営業可能地域、各法令への対応を考慮すると、民泊新法の方が営業開始までスムーズに進むことが多いです。
ただし、旅館業許可の365日営業可能な点は非常に魅力的であり、法令の規制緩和も進んでいます。
開業しようとする場所や建物の状況によって判断することが重要です。
そのため、弊所ではお客様の物件ごとにベストな選択ができるよう、アドバイスを行っています。

住宅宿泊事業法での民泊

実際に港区で住宅宿泊事業法に基づく民泊を開始するための手続きを具体的に解説します。
まずは、下記の事項を確認して港区保健所に事前相談を行いましょう。

条例の確認

住宅宿泊事業法は全国統一的な指針を定める法律です。
そのため、多くの自治体で地域の実情に合わせた条例を制定しています。
港区も住宅宿泊事業法に関して条例を制定しています。
「港区住宅宿泊事業の適正な運営の確保に関する条例」
「港区住宅宿泊事業の適正な運営の確保に関する条例施行規則」

条例のポイント

東京23区内でも民泊に対する規制にはばらつきがあります。
民泊を始めやすい区もあれば逆に規制が厳しい区もあります。

港区は、どちらかというと民泊営業に対して肯定的です。
ただし、営業方法によっては大幅に営業日数が制限されてしまいます。
具体的には住居専用地域文教地区家主不在型の民泊を行う場合、年間営業可能日数が100日を切ってしまいます。

港区民泊制限地域
港区 住宅宿泊事業に関する手引きより引用

赤い地域が制限地域なのですが、かなり広範囲であることがわかります。
つまり、港区において家主不在型で民泊を行う場合は、制限地域に該当するかどうかが重要です。

家主居住型と家主不在型

民泊には2つの営業形態があります。
家主が居住している住宅で民泊を行う家主居住型と、家主が居住していない住宅で民泊を行う家主不在型があります。
判断基準は下記の通りです。

家主居住型

ゲストを宿泊させている間、家主が不在とならずに自ら管理業務を行うものです。
家主が実際に生活をしている家に宿泊させるホームステイのようなイメージです。
つまり、住宅が家主の生活の本拠である必要があります。
そのため、法人ではなく個人としての届出が想定されています。
港区の場合、生活の本拠であるか否かは住民登録と公共料金支払書での確認となります。
住民登録の確認は、区が住基ネットを活用して確認してくれます。
ただし、居室の数が6以上となると、管理業務を委託しなければなりません。
そうなると、必然的に家主不在型となってしまいます。

家主不在型

上記の家主居住型に該当しないものはすべて家主不在型となります。
港区の届出業者の9割以上は家主不在型です。
逆に言えば制限区域内で家主居住型として営業できるのであれば、他との差別化が図れるともいえます。

近隣への周知

港区では住宅宿泊事業の届出を行う14日前までに近隣に事業開始の周知を行う必要があります。
周知範囲は、届出住宅の敷地から概ね10m範囲内の建物に居住している人です。
マンションの場合は、すべての住人が対象になるので大きなマンションがあると大変です。
ただし、ポスティングでOKなので対面で説明する必要はありません。
また、人が居住している必要があるので学校などは対象外となります。
周知用のチラシの様式はありませんが、記載例を基にすれば難しくはありません。
もし、近隣住民から何か意見があったときは記録しておかなければなりません。

鍵の受渡し

住宅宿泊事業法には玄関帳場(フロント)の設置に関して規定はありません。
港区では下記の3つの方法で鍵を受渡すこととされています。

  • 対面による直接の受渡し
  • 電気通信機器を介した受渡し(スマートロック等)
  • 事業者か管理者による施錠・解錠

宿泊者の安全の確保

民泊を始めるには、非常用照明器具の設置や防火区画等の安全措置を講じる必要があります。
港区では指定のチェックリストを用いて確認しなければなりません。
このチェックリストは建築士等が作成することが好ましいとされますが、義務ではありません。
ただし、避難器具の設置や床面積が広い建物、高層階を使用するといったケースでは、建築士などに確認してもらった方が安心でスムーズに進みます。
原則として家主不在型で営業する場合は消防法上、旅館やホテルと同じ扱いとなります。
つまり、本格的な消防設備が必要となり、物件によっては多大な投資が必要です。
また、収容人員が10人以上になると、さらにハードルが上がるので大型施設の場合は注意が必要です。
一方、家主居住型の場合は、宿泊室の床面積が50㎡以下であれば通常の住居と同じ扱いになります。
この場合、消防設備の設置義務はありません。(建物全体の延べ床面積によっては設置義務あり)

消防署への事前相談

上記の消防設備の設置や安全措置については、管轄の消防署に相談すれば親切に教えてもらえます。
費用のかかる消防設備の設置に関しては、特例などもあり、費用が抑えられることもあります。
また、家主居住型で「住居」という扱いとなった場合は、省略できる届出もあります。
港区では、消防署への事前相談を行った記録が届出書類に含まれています。
消防署に相談に行き、事前相談記録書という書類に消防署の確認印をもらわなければなりません。
多くの自治体で必要となる「消防法令適合通知書」の提出は東京都では求められていません。

ただし、民泊開業前までに消防法の規定に適合している必要はあります。

マンションで民泊を行う場合

マンション(共同住宅)の1室で民泊を行う場合は下記の事項の確認が必要です。

  • 管理規約に民泊禁止の規定があるか否か
  • 管理組合に民泊禁止の意思がないこと

管理規約で民泊を禁止しているマンションは数多くあります。
また、古いマンションではそもそも民泊に関する規定がないことがあります。
この場合は民泊を禁止しない意思の誓約書の提出か、その旨の議事録が必要となります。
いずれにしろ、民泊を禁止する規定があればマンションで民泊は営業できません。

管理業者への委託

下記の場合は、管理業務を管理業者へ委託しなければなりません。

  • 居室の数が6以上
    居室とは宿泊者が専有する部屋のことです
    台所など共有する部分は含まれません(家主不在型では含まれる)
  • 家主不在型で民泊を行う
    同一敷地内に生活の本拠となる住宅があり、居室が5以下の場合は自ら管理可能

管理業務の委託は、民泊新法に基づく登録を受けた管理業者と契約を締結する必要があります。
何かあったときの駆けつけ時間の目安は30分以内です。
この条件に合った業者を選定しなければなりません。
自治体のHPには届出情報が公開されているので参考にできます。
港区内の住宅宿泊事業届出情報公表一覧

廃棄物の処理

民泊から出る廃棄物は事業系一般廃棄物という扱いになります
そのため、原則として家庭ごみと一緒に出すことはできません
一般的には下記のいずれかの方法で廃棄物を処理します

  • 自治体の収集運搬を利用する
    自治体によっては、ゴミ処理券を購入して家庭ごみと一緒に回収してくれます
  • 民間の処理業者に委託する
    自治体の許可を受けている処理業者と契約を締結する必要があります

港区の場合は区による収集運搬は行っていません。
つまり、民間の処理業者に委託しなければなりません。
民泊から出る廃棄物は分別の問題や少量なことが多く、業者は敬遠する傾向があります。
自治体のHPに許可業者一覧が掲載されているので、早めに業者を確保しましょう。
港区で許可を受けている一般廃棄物処理業者

定期報告

営業を開始した後になりますが、2カ月に1回の定期報告が必要です。
報告事項は国別の宿泊者数や日数です。
この報告は後述する民泊運営システムからオンラインで可能です。

住宅宿泊事業法の届出

上記の事項が確認でき、民泊を営業できる目途が立ったら実際に届出を行います。
届出先は港区長で、窓口は港区保健所住宅宿泊事業担当になります。
この届出は、民泊運営システムからオンライン申請が可能です。
電子署名や認証のための機器が必要ですが、保健所に行く必要がないので非常に楽です。
また、定期報告もシステム上から行うことが可能なのでメリットも大きいといえます。
中にはシステム経由しか受け付けないという自治体もあります。
ちなみに港区の場合はシステムを利用せずに紙媒体での届出も可能です。

届出に必要な書類

届出には様々な書類が必要となります。
慣れないと書類収集だけで1カ月程度かかることもあります。
太字は様式があるため、こちらから入手できます。

届出書類一覧
  • 住宅宿泊事業届出書
  • 定款又は寄付行為(法人の場合)
  • 役員の身分証明書(法人の場合)
  • 届出者の身分証明書(個人の場合)
  • 住宅の登記事項証明書
  • 入居募集のチラシ、随時利用している証明書類(該当する場合)
  • 住宅の図面(床面積や設備の設置状況がわかるもの)
  • 転貸に関する承諾書(賃借、転借の場合)
  • マンション規約、民泊可の誓約書、議事録(マンションの場合)
  • 管理業務契約書(管理業務を委託する場合)
  • 欠格事由に該当しない誓約書
  • 近隣に周知を行った旨を証する書類(通知書面、半径20mがわかる住宅地図も添付)
  • 事前相談記録書
  • チェックリスト
  • 確認記録簿(家主不在型の場合)

営業開始までのスケジュール

  1. 物件の選定
  2. 保健所に相談

  3. 消防署に相談
  4. 物件の契約(賃貸の場合)
  5. 近隣住民への周知(届出の14日前までに)
  6. 届出(営業開始10日前まで)
  7. 標識を受領して営業開始

最後に

必要書類の収集から作成までスムーズにいっても営業開始まで1カ月程度はかかります。
慣れない場合や時間が取れなければ2~3カ月かかることもざらです。
また、並行して仲介サイトへの登録や外国人宿泊者への利便性確保も必要です。
営業開始後も宿泊者名簿の管理や苦情への対応など、やるべきことはたくさんあります。
届出業務に関しては、専門家に代行を依頼することで必要な時間が確保できます。
民泊を始める場合にはぜひ弊所までご相談ください。
本業に集中できる時間を確保して余裕を持って開業まで進めることができます。

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