先日、大手アダルト動画制作会社ののソフト・オン・デマンド(SOD)が、無許可で接待営業をしたということで社長らが逮捕されました。
風俗営業を行っていく上で許可権限を有する警察との付き合いは切っても切れないものです。
SODの件も逮捕という部分が大きく報道されていますが、経緯を見るといきなり逮捕に至ったわけではなく、事前に行政指導が行われた上で重い処分が下されたことがわかります。
不意に立入り検査を受けた場合や万が一、法令違反を指摘されたときに慌てることのないよう、あらかじめ準備をしておきましょう。

風営法における監督者

風俗営業を管轄する監督省庁は警察庁ですが、権限は都道府県の公安委員会に委任されています。
そして都道府県警察は、その権限について都道府県公安委員会を補佐する権限を有します。
実務上の風俗営業許可の申請先は、営業所がある地域を管轄する警察署の生活安全課です。
風営法に関する違法行為があったときには、都道府県公安委員会から「指示処分」、「営業停止命令」、「営業取消処分」のいずれかの行政処分がくだされます。(行政指導もありますが相手を拘束しないのでここでは割愛します)

立入り調査

指示処分や営業停止処分が下される場合は、立入り調査がきっかけとなること多くあります。
風営法に基づく調査の場合、営業者は調査を拒否することはできません。
ただし、日頃から気を付けるポイントを守っていればおそれることはありません。

従業者名簿の管理やお店の構造に関しては日頃から気を付けておきましょう。
また、立入り調査が適切に行われているかということもしっかりと確認する必要があります。

指示処分

風俗営業において違反行為があった場合、通常はいきなり営業停止命令や取消し処分といった処分を下すのではなく、指示処分がなされます。
指示処分とは、違法行為を改善するための指示を行う行政処分で、罰金や禁固といった刑罰があるわけではありません。
昭和59年の改正前は、風俗営業者が守らなければならない事項の違反はすべて直接罰として改善命令などを経ずに刑罰が科されていました。
しかし、改正後は日常的な営業活動に伴って生じるような違反については『遵守事項』として直ちに刑罰で対処するのではなく、まず指示処分を行い営業者が自主的に改善をすることを促すことになりました。
令和3年度のデータによると風俗営業者に対する行政処分は3,678件のうち3,300件が指示処分です。
ちなみにその中で一番多い違反は従業者名簿の備付義務違反です。
もちろん、同様の違反を繰り返したり、悪質だと判断されれば指示処分を経由せずに営業取消処分や営業停止命令を行うこともあります。

指示処分の概要

風俗営業者に対する指示処分に関しては風営法25条で規定されています。
対象は風俗営業者となっていますが、飲食店営業者に対する規定(風営法34条)もほぼ同様です。

公安委員会は、風俗営業者又はその代理人等が、当該営業に関し、法令又はこの法律に基づく条例の規定に違反した場合において、善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害し、又は少年の健全な育成に障害を及ぼすおそれがあると認めるときは、当該風俗営業者に対し、善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害する行為又は少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため必要な指示をすることができる。

風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第25条

「法令」とは、すべての法律及び命令のことなので風営法や関係法令に限定されません。これに対しこの「法律に基づく条例」は、風営法に基づいて都道府県が制定する条例になります。
上記の法令に違反した上で「善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害し、又は少年の健全な育成に障害を及ぼすおそれがあると認めるとき」という公益要件を満たす必要があります。

公益要件とは簡単に言うと、世の中に必要な利益をもたらしているかということです。本質的に不健全とされている性風俗特殊営業に対しては、公益要件不要で処分可能とされています。

指示処分の要件

公安委員会が定める指示の基準を確認すると、以下の4点が指示処分の基準とされています。

  1. 指示は、比例原則に則って行うこと。
  2. 指示は営業者に過大な負担を課さないものとすること。
  3. 指示の内容は、違反行為と関連性のあるものとすること。
  4. 指示は、1回の違反について1回行うものとすること。

例えば違反行為を是正するために複数の選択が可能な場合、他の手段より高額の費用が必要な指示を行うことは「過大な負担」に該当する可能性があります。
指示の内容の具体例としては、見通しを妨げている設備があればその設備を撤去するといった具体的な指示になります。

処分に不服がある場合

指示は処分の理由を記載した書面で行う必要があります。処分の理由には処分の原因となる事実、根拠法令、処分基準の適用関係が記載されている必要があるので確認しましょう。
行政手続法の不利益処分にあたるので弁明の機会を付与した上で、不服があれば行政訴訟などで争うことができます。

営業の取消・停止処分

指示処分に対して営業停止命令や取消し処分は実際に営業が制限されるため、お店にとっては非常に重い処分です。
更に罰金や禁固刑といった刑事処分が科されることもあります。
また、営業許可が取り消されると、風俗営業許可の欠格要件に該当してしまうので、5年間は新たに風俗営業許可を受けることができません。

取消・停止処分の概要

風俗営業者に対する取消・停止処分に関しては風営法26条で規定されています。
この条文を根拠に風俗営業許可だけでなく、飲食店営業許可についても処分が可能です。

公安委員会は、風俗営業者若しくはその代理人等が当該営業に関し法令若しくはこの法律に基づく条例の規定に違反した場合において著しく善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害し若しくは少年の健全な育成に障害を及ぼすおそれがあると認めるとき、又は風俗営業者がこの法律に基づく処分若しくは第三条第二項の規定に基づき付された条件に違反したときは、当該風俗営業者に対し、当該風俗営業の許可を取り消し、又は六月を超えない範囲内で期間を定めて当該風俗営業の全部若しくは一部の停止を命ずることができる。

 公安委員会は、前項の規定により風俗営業(第二条第一項第四号及び第五号の営業を除く。以下この項において同じ。)の許可を取り消し、又は風俗営業の停止を命ずるときは、当該風俗営業を営む者に対し、当該施設を用いて営む飲食店営業について、六月(前項の規定により風俗営業の停止を命ずるときは、その停止の期間)を超えない範囲内で期間を定めて営業の全部又は一部の停止を命ずることができる。

風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第26条

営業許可の取消、停止命令を行うための要件は下記の①②のいずれかに該当した場合です。

①法令違反がある場合

法令若しくはこの法律に基づく条例に違反した場合において、著しく善良な風俗若しくは正常な風俗環境を害し若しくは少年の健全な育成に障害を及ぼすおそれがあること。

指示処分と同様に「法令」とは、すべての法律及び命令のことなので風営法や関係法令に限定されません。これに対し、この「法律に基づく条例」は、風営法に基づいて都道府県が制定する条例になります。
指示処分を規定する25条の場合と異なり、「著しく」という限定がつきます。
「著しく」の判断は、警察庁が定める処分基準に従って判断されます。
処分基準の例として量定区分といものがありますが、「構造設備の無承認変更」、「名義貸しの禁止、」「遊技機の無承認変更」、「年少者接待業務従事禁止」、「年少者接客業務従事禁止」は量定区分がAとされ、直ちに許可取消処分をするとされます。

②処分や条件に違反した場合

風営法に基づく処分又は法3条2項の規定に基づき付された条件に違反したこと。

公安委員会が行った処分や風営法3条2項の規定に基づいて付した条件に違反した場合が該当します。
例えば25条の規定に基づいてされた指示処分は風営法に基づく処分なので、指示処分に違反した場合は営業取消し処分が下されます。
3条2項の規定に基づいて付した条件とは、営業禁止地域に近接して営業所がある場合に営業所の拡張を行ってはいけない等、営業許可に付される条件のことです。

処分に不服がある場合

営業許可の取消処分も停止処分も「処分の理由」を記載した書面で行われる必要があります。
営業許可の取消処分は重大な不利益処分に当たりますので公開での聴聞が義務付けられています。
また、営業許可の停止命令も行政手続法上では弁明の機会の付与の対象ですが、特例として独自の聴聞手続が定められています。
処分に対して不服があれば審査請求、行政訴訟、国家賠償請求訴訟という争い方がありますので、処分に納得できないときは専門家に相談しましょう。

行政処分を受けてしまったら

以上のように、いきなり営業停止命令や営業許可取消処分といった重い処分が下されることは非常に稀なケースです。
しかし、だからといって違反行為をしてもよいことにはなりませんし、指示処分から営業停止命令、取消処分とつながっていきます。
風俗営業の場合、許可権限を持つ警察が、同時に犯罪を取締まる執行機関であることを忘れてはいけません。一方では許可を受け付けておいて、違反行為があれば自ら取締りを行わなければなりません。
違反行為が続けば警察としても取締りを強化せざるを得ない事情もあります。
行政処分を受けてしまった場合、明らかな違反行為であれば反省して処分に従う必要がありますが、不当な取締まりにや納得ができないケースもあるかもしれません。
立入り検査や不利益処分を受けたときは、正式な手続きを踏んで実行されているかということを再度確認しましょう。

最後に

行政処分を受けてしまうとお店にとっては非常に大きな損害となってしまいます。
日頃から従業者名簿の整備や店内の照度の確認など、小さいことを積み重ねておくことで重い処分を事前に防ぐことができます。
指示処分と営業停止命令、取消し処分の流れを把握して日々の営業活動を行っていきましょう。

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