風俗営業を始める際に、まず決めなけらばならないのが営業所を設置する場所です。
風俗営業許可を受けるためには、人の要件、構造の要件、場所の要件をクリアする必要があります。
人と構造の要件は、事後的でも何とかなることがありますが、場所の要件だけは営業ができない地域であった場合はどうしようもありません。
今回は『場所的要件』について「風俗営業ができる場所とはどのような地域なのか」ということと、許可申請をする際にどのような書類が必要になのるかということを解説します。
法令上の制限
どのような場所が風俗営業を制限する地域なのかということを規定しているのは風営法4条です。
2 公安委員会は、前条第一項の許可の申請に係る営業所につき次の各号のいずれかに該当する事由があるときは、許可をしてはならない。
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第4条2項2号
二 営業所が、良好な風俗環境を保全するために特にその設置を制限する必要があるものとして政令で定める基準に従い都道府県の条例で定める地域内にあるとき。
目的は「良好な風俗環境の保全」であり、政令の基準に従って各都道府県の条例で営業制限地域を定めるということが風営法の言わんとしているところです。
政令の基準
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行令(以下政令)に、営業制限地域を定める際の基準が規定されています。
風俗営業の許可に係る営業制限地域の指定に関する条例の基準)
第六条 法第四条第二項第二号の政令で定める基準は、次のとおりとする。
一 風俗営業の営業所の設置を制限する地域(以下この条において「制限地域」という。)の指定は、次に掲げる地域内の地域について行うこと。
イ 住居が多数集合しており、住居以外の用途に供される土地が少ない地域(以下「住居集合地域」という。)
ロ その他の地域のうち、学校、病院その他の施設でその利用者の構成その他のその特性に鑑み特にその周辺における良好な風俗環境を保全する必要がある施設として都道府県の条例で定めるもの(以下「保全対象施設」という。)の周辺の地域
二 前号ロに掲げる地域内の地域につき制限地域の指定を行う場合には、当該保全対象施設の敷地(これらの用に供するものと決定した土地を含む。)の周囲おおむね百メートルの区域を限度とし、その区域内の地域につき指定を行うこと。
三 前二号の規定による制限地域の指定及びその変更は、風俗営業の種類及び営業の態様、地域の特性、保全対象施設の特性、既設の風俗営業の営業所の数その他の事情に応じて、良好な風俗環境を保全するため必要な最小限度のものであること。
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行令第6条
- 住居が多数集合している地域(住居集合地域)
- 学校や病院など風俗環境を保全する必要のある施設の周囲100m以内(保全対象施設)
住宅街にキャバクラのような施設があったら夜も落ち着いて眠れませんし、小学校の隣にゲームセンターなどがあれは青少年の育成に問題が生じます。
「良好な風俗環境の保全」という目的を達成するには、上記の基準に従い、各都道府県の条例で風俗営業制限地域を定めることとなります。
住居集合地域の指定
住居集合地域の指定は、都市計画法の用途地域区分を基準として指定されていることがほとんどです。
用途地域区分とは、土地を住宅地、商業地、工業地などに分類して、その使用目的や建物の用途を定めたルールのようなものです。
もちろん、用途地域区分を用いずに条例で独自に指定することも可能です。
また、住居集合地域の範囲内であっても番地を指定して緩和している条例もあります。
保全対象施設の指定
保全対象施設とは、近くに風俗営業所があると悪影響が出る可能性の高い施設です。
学校や幼稚園、病院といった施設では悪影響がでる可能性が容易に想像できるので、たいていの都道府県で保全対象施設として指定されています。
中には特別養護老人ホームが指定されている都道府県もあるので注意が必要です。
保全対象施設の敷地
政令6条2号で保全対象施設は敷地を含めて保護されると規定されています。
保全対象施設からの距離の計測は、原則として学校などではプールや校庭なども含めた敷地の外周が計測の基点となります。
一方で雑居ビルの一角などに保全対象施設が入居している場合は、必ずしも雑居ビルの外周が基点となるわけではありません。その施設と雑居ビルが営業所と一体として同視できなければ、専有部分の外周を基点とするのが判例です。
風俗営業所の範囲に関しても「駐車場や庭等であっても社会通念上当該建物と一体とみられ、専ら当該営業の用に供される施設であれば、『営業所』に含まれる」(解釈運用基準第12ー2)とされています。
ただし、他の施設との共用の駐車場であったり、道路を挟んで駐車場が設置している場合は、営業所に含まれないケースもありますので実態をみて判断する必要があります。
風俗営業所と保全対象施設との距離が、制限距離ぎりぎりの時などは、敷地や営業所の範囲はどこまでかということを厳密に確認する必要があります。
保全対象施設からの距離の測定方法
保全対象施設からの距離については、「水平面で図る距離についていうものであり、例えば、営業所がビルの二階以上又は地下にある場合でも、営業所の存在する位置から垂直に地面に下ろした位置について測るものとする」(解釈運用基準第12ー9)とされています。
つまり、高層階や地下にあるからといって規制を受けないということはありません。
保全対象施設の判断
政令6条2号で「これらの用に供するものと決定した土地を含む」と規定されています。
保全対象施設が実際に存在していれば自分の目で判断することが可能です。しかし、恐ろしいことに建設予定地としてまったくの更地の可能性もあります。
「営業許可の時点で公的手続等からも客観的外形的に明白になっていること」とした判例があります。
絶対的な基準があるわけではないのですが、保全対象施設を営むために必要な許認可の有無や、土地・建物の契約状況などで判断されることが多いようです。
いずれにしろ、申請前に関係行政機関に対して新しい施設の開業予定を確認しておく必要があります。
そうすることによってリスク回避の可能性は大幅に上がります。
条例への委任
具体的な立地制限は、上記の政令の基準に従って各都道府県の実情に応じて条例で定められます。
住居集合地域の定義や、どんな施設を保全対象施設として指定するかということは、各都道府県が決定して条例に規定します。
東京で大丈夫だったから他県でもOKだろうと思っていると、思わぬ落とし穴にはまる可能性があります。
例えば「学校」といっても学校教育法1条にいう学校だけでなく、専門学校を含んでいたり、「病院」といっても医療法1条の5の病院(20人以上の病床施設を有する)だけでなく、診療所(有床施設が19人以下の病床施設を有する)も含んで規制することも可能だからです。
また、保全対象施設からの制限距離は都道府県によってまちまちです。
東京都の場合
実際に東京都の条例と規則を確認して営業制限地域を確認してみましょう。
東京都の風俗営業制限地域は、条例と条例の施行に関する規則で規定されています。
条例による制限
(風俗営業の営業所の設置を特に制限する地域)
第三条 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和二十三年法律第百二十二号。以下「法」という。)第四条第二項第二号の条例で定める地域は、次の地域とする。
一 第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域、第一種住居地域、第二種住居地域、準住居地域及び田園住居地域(以下「住居集合地域」という。)。ただし、法第二条第一項第四号及び第五号の営業に係る営業所については、近隣商業地域及び商業地域に近接する第二種住居地域及び準住居地域で東京都公安委員会規則(以下「規則」という。)で定めるものを除く。
二 学校、図書館、児童福祉施設、病院及び診療所の敷地(これらの用に供するものと決定した土地を含む。)の周囲百メートル以内の地域。ただし、近隣商業地域及び商業地域のうち、規則で定める地域に該当する部分を除く。
2 前項の規定は、列車等常態として移動する施設において営まれる風俗営業に係る営業所については、適用しない。
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例
- 住居集合地域
(第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域、第一種住居地域、第二種住居地域、準住居地域及び田園住居地域)
・4号営業及び5号営業では第二種住居地域と準住居地域で例外あり - 学校、図書館、児童福祉施設、病院及び診療所の周囲100m以内の地域(規則による例外あり)
東京都の条例では、住居系の用途地域内と一定の施設の周囲100mの地域では風俗営業はできませんと規定されています。
条例規則による緩和
条例規則では条例で規制されていた地域を緩和する規定があります。
(風俗営業の営業所の設置を特に制限する地域の特例)
第1条 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例(昭和59年東京都条例第128号。以下「条例」という。)第3条第1項第1号ただし書の規則で定める地域は、近隣商業地域及び商業地域に隣接し、かつ、当該地域からの距離が20メートル以下の区域とする。
(平11公委規則1・一部改正)
第2条 条例第3条第1項第2号ただし書の規則で定める地域は、次の各号の区分に従い、当該各号に掲げる区域とする。ただし、当該区域のうち、風俗営業の規制に当たり著しい支障があると東京都公安委員会(以下「公安委員会」という。)が認める区域を除く。
(1) 近隣商業地域
ア 大学、病院(児童福祉施設の設備及び運営に関する基準(昭和23年厚生省令第63号)第15条第2項に規定する第一種助産施設を含む。以下同じ。)及び診療所(8人以上の患者を入院させるための施設を有するものに限る。)の敷地からの距離が50メートル以上の区域
イ 児童福祉施設の設備及び運営に関する基準第15条第3項に規定する第二種助産施設(以下「第二種助産施設」という。)及びアの診療所以外の診療所の敷地からの距離が20メートル以上の区域
(2) 商業地域
ア 学校(大学を除く。)、図書館及び児童福祉施設(児童福祉法(昭和22年法律第164号)第7条第1項に規定する助産施設を除く。)の敷地からの距離が50メートル以上の区域
イ 大学、病院及び診療所(8人以上の患者を入院させるための施設を有するものに限る。)の敷地からの距離が20メートル以上の区域
ウ 第二種助産施設及びイの診療所以外の診療所の敷地からの距離が10メートル以上の区域
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例の施行に関する規則
- 近隣商業地域、商業地域に隣接して当該地域から20m以内の地域
第二種住居地域と準住居地域に設置される4号及び5号の営業所に限る - 近隣商業地域
ア 大学、病院、診療所(8人以上の病床施設)の敷地から50m以上の区域
イ 第二種助産施設、診療所(7人以下の病床施設を有する)の敷地から20m以上の地域 - 商業地域
ア 学校(大学を除く)、図書館及び児童福祉施設(助産施設を除く)の敷地から50m以上の地域
イ 大学、病院及び診療所(8人以上の病床施設を有する)の敷地から20m以上の地域
ウ 第二種助産施設及び診療所(7人以下の病床施設を有する)の敷地から10m以上の地域
東京都の距離制限
上記の規制をまとめると、東京都の距離制限は下記の通りとなります。
建築基準法と風営法の関係
用途地域による建築物の用途制限に関しては建築基準法でも規制しています。
風営法と建築基準法では法の目的や保護法益が異なるので、それぞれの立場で判断するという説もありますが、矛盾が生じる用途地域で開業予定の場合は、管轄の警察署に相談しておく必要があります。
風俗営業許可申請時に必要な書類
風俗営業の許可申請を行う際の添付書類として、営業所周辺の略図というものがあります。
何故この添付書類が必要になるかというと「この場所は営業制限地域ではない」ということを疎明するためです。
具体的には住宅地図等に営業所周辺の保全対象施設の有無や、営業所からの距離を記載して作成します。
営業制限地域に該当してしまうと許可は受けられませんので、関係行政機関への確認、実際の現場調査を行った上で作成する必要があります。
児童福祉法に基づく施設の理解や、場所によっては測量の専門家に依頼をしなければならないケースもありますので非常に時間と手間を要することがあります。
最後に
風俗営業を始める際に営業所の設置場所は始めに決定すべき事項です。
営業所周辺の保全対象施設の有無や用途地域を確認せずにテナントを契約してしまうと、後々大きな損害を伴うことがあります。各都道府県の条例を確認して慎重に調査した上で物件を決めるようにしましょう。
そこまでする時間がなかったり、手間がかかるということであれば弊所でも調査や作成が可能ですのでお気軽にご相談ください。
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