昨今、運転免許証から本籍の記載が削除されるなど、人権やプライバシーへの配慮が進んでいます。
風俗営業においても2014年に「風俗営業等に関する規制及び業務の適正化等に関する法律に基づく許可申請書の添付書類に関する内閣府令」(以下内閣府令)が改正され、従業者名簿の記載事項から本籍(日本国籍を有しないものは国籍)が削除されました。
ただし、一定の営業者には国籍を確認して記録をしておかなければならない義務が課されています。
国籍確認に関しては従業者名簿との関係で理解が混同しがちな部分であり、知らないうちに違反行為をしていたということもあり得ますので、ここで整理してみましょう。
従業者名簿の記載事項
風営法では、営業者に対して従業者名簿を備え付ける義務を課しています。
以前は従業者名簿に国籍を記載する必要がありましたが、2014年の閣府令の改正以降は従業者名簿の記載事項から削除されています。
そのため、国籍を確認する必要がなくなった…と思いがちですが、そういうことではありません。
一定の営業者への確認義務
従業者名簿への国籍の記載は必要なくなりましたが、風営法36条の2では、一定の営業者に対して下記のように規定し、国籍などを「確認して記録する」ことを求めています。
接待飲食等営業を営む風俗営業者、店舗型性風俗特殊営業を営む者、無店舗型性風俗特殊営業を営む者、特定遊興飲食店営業者及び第三十三条第六項に規定する酒類提供飲食店営業を営む者は、当該営業に関し客に接する業務に従事させようとする者について次に掲げる事項を、当該事項を証する書類として内閣府令で定める書類により、確認しなければならない。
一 生年月日
二 国籍
三 日本国籍を有しない者にあつては、次のイ又はロのいずれかに掲げる事項
イ 出入国管理及び難民認定法第二条の二第一項に規定する在留資格及び同条第三項に規定する在留期間並びに同法第十九条第二項の許可の有無及び当該許可があるときはその内容
ロ 日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法(平成三年法律第七十一号)に定める特別永住者として永住することができる資格
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第36条の2
2 接待飲食等営業を営む風俗営業者、店舗型性風俗特殊営業を営む者、無店舗型性風俗特殊営業を営む者、特定遊興飲食店営業者及び第三十三条第六項に規定する酒類提供飲食店営業を営む者は、前項の確認をしたときは、国家公安委員会規則で定めるところにより、当該確認に係る記録を作成し、これを保存しなければならない。
国籍を確認する必要のある一定の営業者
- 接待飲食等営業を営む風俗営業者
キャバクラやホストクラブなど - 店舗型性風俗特殊営業を営む者
ソープランドやファッションヘルスなど - 無店舗型性風俗特殊営業を営む者
デリヘルなど(映像送信型性風俗特殊営業、電話異性紹介営業は対象外) - 特定遊興飲食店営業を営む者
ナイトクラブやショーパブなど - 深夜酒類提供飲食店営業を営む者
バーやスナックなど
以前に人身売買が国際的な問題となったことから、特に対面で接客するような業務は性的搾取につながる危険性が高いということで上記の営業が対象になっています。
また、確認対象になる従業者については、有給無給や契約の形態を問いません。接客業務に従事する人はすべて対象になりますので注意しましょう。
確認の方法
国籍の確認の方法は内閣府令で定められています。
気をつけなければならない点は、「内閣府令で定める書類」で確認をしないと確認義務を履行したことにならない、ということです。
内閣府令で定める書類
具体的には、日本国籍の有無に応じて以下のいずれかの書類で確認をする必要があります。
- 住民票の写し、住民票記載事項証明書(住民基本台帳法第七条第二号に掲げる事項及び本籍地都道府県名が記載されているものに限る。)
必要な指定項目のみを記載したものが住民票記載事項証明書です。 - 旅券法(昭和二十六年法律第二百六十七号)第二条第二号の一般旅券
いわゆるパスポートです。 - 上記に掲げるもののほか官公庁から発行され、又は発給された書類その他これに類するもので、当該者の生年月日及び本籍地都道府県名の記載のあるもの
船員手帳、身体障碍者手帳など。(健康保険証はNG)
- 出入国管理及び難民認定法(昭和二十六年政令第三百十九号)第二条第五号の旅券
- 出入国管理及び難民認定法第十九条の三に規定する在留カード
- 特別永住者証明書
日本国籍を有しない人の場合は、資格外活動許可の有無によって必要書類が変わることがあります。
確認したことの記録
上記の書類で国籍を確認したら、その結果は記録して一定期間保存しなければなりません。
保存方法は、確認した書類の写しを従業者名簿と合わせて保存、または電磁的記録保存(PC)です。
また、この記録は従業者が退職した日から起算して3年を経過する日まで保存しておく必要があります。
確認を怠った場合の罰則
上記にそった確認や記録の保存を怠った場合は、10日以上80日以下の営業停止命令(性風俗特殊営業の場合は20日以上4月以下 指示処分前置なし)、100万以下の罰金に処される可能性があります。
性風俗特殊営業の場合は、背後に人身売買、売春、強制労働の問題が潜在している可能性が高いということでより重い処分が科されます。
最後に
接客業務を行う従業員に対しては、国籍および生年月日、在留資格などを確認する必要があります。
日本国籍の方に対しては本籍記載の住民票の写し、外国籍の方に対しては在留カードで確認するという方法が最も容易で一般的でしょう。
従業者名簿と合わせて保存しておくことで、警察の立ち入り検査などがあった場合でも安心して対応できます。
弊所でも必要な記載事項を網羅した従業者名簿用紙を用意しております。従業者の雇用に関してのご不明点などがありましたら、お気軽にご相談ください。
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