映像送信型性風俗特殊営業の届出に関しては、弊所でもお問い合わせを多くいただいております。
2023年7月13日から「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」(以下、性的姿態撮影等処罰法)が施行されています。
これまでも迷惑防止条例や児童売春等処罰法による規制がありましたが、すべての事案に対応しきれていませんでした。
しかし、この法律により、わいせつ画像の盗撮や公開、保存などが今まで以上に規制されます。
また、映像送信型性風俗特殊営業の届出は、FC2などのプラットフォームを活用している場合に必要かというお問い合わせも多くいただきます。
映像送信型性風俗特殊営業をとりまく環境は変化してきています。
AV新法への対応も必要です。
あらためて映像送信型性風俗特殊営業の始め方を解説します。
映像送信型性風俗特殊営業とは
簡単にいえばインターネットを活用してアダルト動画等を配信して販売する営業です。
アダルト動画の配信だけでなく、ライブチャットやファンクラブ運営なども該当することがあります。
風営法では下記のように定義されています。
この法律において「映像送信型性風俗特殊営業」とは、専ら、性的好奇心をそそるため性的な行為を表す場面又は衣服を脱いだ人の姿態の映像を見せる営業で、電気通信設備を用いてその客に当該映像を伝達すること(放送又は有線放送に該当するものを除く。)により営むものをいう。
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第2条8項
上記のような映像を専ら扱い、商業目的で運用する場合は風営法に基づく届出が必要です。
専らとは7~8割程度のことをいいますが、その判断は売上等、実態に基づいたものになります。
プラットフォームを活用する場合
FC2やGcolleなどの動画配信サイトを活用してアダルト動画を販売するケースは多くあります。
このようなプラットフォームを介して販売している場合は届出が必要でしょうか。
ネットやSNS上でも届出は不要、いや必要だという議論が溢れています。
確かに判断に迷うケースがあるのは事実です。
これについては、報酬の受け取り方やプラットフォームサイトの方針等で事情は変わります。
そこで弊所では個別の事情を考慮し、関係機関に確認を行った上で回答をしています。
海外でサーバーが管理されている場合
海外で管理されているサーバーを利用しているから届出が不要という話もよく聞きます。
しかし、風営法解釈運用基準では、はっきりと否定しています。
届出の対象となるのは、我が国において営業を営んでいる者であり、客に見せる映像が蔵置されている自動公衆送信装置(サーバー)の所在地を問わない。(解釈運用基準18-4(7))
確かに日本国内ではなく、海外で営業を営んでいれば届出は不要です。
しかし、風営法ではサーバーが管理されている地域は問われません。
海外サイトを活用しているから映像送信型性風俗特殊営業の届出は不要と考えるのは早計です。
AV新法への対応
令和4年から「性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律」が施行されています。(以下AV新法)
自分以外の出演者がおり、「性行為映像制作物」に該当する場合、AV新法に対応する必要があります。
性行為映像制作物
AV新法では下記の通り定義されています。
2 この法律において「性行為映像制作物」とは、性行為に係る人の姿態を撮影した映像並びにこれに関連する映像及び音声によって構成され、社会通念上一体の内容を有するものとして制作された電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)又はこれに係る記録媒体であって、その全体として専ら性欲を興奮させ又は刺激するものをいう。
AV新法第2条2項
一般的なアダルト作品であれば、ほぼ該当することとなります。
異性の記載はないので、ゲイ向けの作品なども該当します。
AV新法の重要ポイント
AV新法に抵触する場合、主に下記の事項が重要となります。
- 出演契約書の作成、交付、説明義務
- 契約締結から1カ月の撮影禁止期間
- 撮影終了後から4カ月の公表禁止期間
- 公表から1年間の解除権の行使(経過措置あり)
- 差止め請求権の行使
- 製作者への罰則
個別の内容について詳しく知りたい方は是非ご相談ください。
出演契約書の内容
作品ごとに出演契約を締結する必要があります。
また、契約書には下記の事項が記載されていないと法的義務を果たしたとはいえません。
- 出演者が性行為映像制作物への出演をすること
- 出演者の性行為映像制作物への出演に係る撮影を予定する日時及び場所
- 当該出演者の性行為に係る姿態の具体的内容
- 性行為に係る姿態の相手方を特定するために必要な事項
- 性行為映像制作物の公表の具体的方法及び期間
- 性行為映像制作物の公表を行う者が制作公表者以外の者であるときは、その旨及び当該公表を行う者の氏名又は名称その他当該公表を行う者を特定するために必要な事項
- 出演者が受けるべき報酬の額及び支払の時期
- その他内閣府令で定める事項(公表する地域やサーバー設置者)
上記の事項を出演契約書に落とし込む必要があります。
その上で出演者に対して契約書を交付し、契約内容を書面(電磁的記録)で説明しなければなりません。
弊所では出演契約書及び説明書面の作成も承っております。
性的姿態撮影等処罰法
新たに施行された性的姿態撮影等処罰法では、法制定の目的として下記の通り規定しています。
この法律は、性的な姿態を撮影する行為、これにより生成された記録を提供する行為等を処罰するとともに、性的な姿態を撮影する行為により生じた物を複写した物等の没収を可能とし、あわせて、押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等の措置をすることによって、性的な姿態を撮影する行為等による被害の発生及び拡大を防止することを目的とする。
性的姿態撮影等処罰法第1条
具体的には以下の行為が処罰の対象となります。(法務省HPより引用)
性的姿態等撮影罪
- 正当な理由がないのに、ひそかに「性的姿態等」(性的な部位、身に着けている下着、わいせつな行為・性行為等がされている間における人の姿)を撮影
- 同意しない意思を形成、表明又は全うすることが困難な状態にさせ、又は相手がそのような状態にあることに乗じて、「性的姿態等」を撮影
- 性的な行為ではないと誤信させたり、特定の者以外はその画像を見ないと誤信させて、又は相手がそのような誤信をしていることに乗じて、「性的姿態等」を撮影
- 正当な理由がないのに、16歳未満の子どもの「性的姿態等」を撮影※
※相手が13歳以上16歳未満の子どもであるときは、行為者が5歳以上年長である場合
性的映像記録提供等罪
- ①又は⑤によって撮影・記録された性的姿態等の画像(「性的映像記録」)を特定・少数の者に提供
(3年以下の懲役又は300万以下の罰金) - 「性的映像記録」を不特定多数の者に提供又は公然と陳列
(5年以下の懲役又は500万以下の罰金)
性的映像記録保管罪
- 提供又は公然陳列目的で、「背的映像記録」を保管
性的姿態等映像送信罪
- 不特定・多数の者に①と同様の方法で、「性的姿態等」の映像を送信(ライブストリーミング)
性的姿態等映像記録罪
- ①と同様の方法で映像送信された「性的姿態等」の映像を、そのようなものであると知りながら、記録
今までとは違い、全国一律のルールとなり刑罰の上限も拡大されています。
アダルト撮影でも注意が必要
たとえば、アダルト動画でも「盗撮」をモチーフとする作品は多くあります。
通常は演出なので相手方の許可を得ていますが、上記の罪に該当してしまうと処罰の対象となります。
最近では大手のAVメーカーだけではなく同人AVとして配信する方も多く注意が必要です。
映像送信型性風俗特殊営業の届出
実際に映像送信型性風俗特殊営業の届出を具体的に解説します。
届出先は公安委員会となりますが、事務所の所在地を管轄する警察署を経由します。
この届出は、営業を開始しようとする10日前までに行わなければなりません。
また、届出単位はサイトごとになります。
複数のサイトを運用している場合はサイトの数に応じた申請となります。
映像送信型性風俗特殊の届出事項
公安委員会への届出事項は下記の通りです。
- 氏名又は名称及び住所 法人の場合は代表者の氏名
- 広告宣伝する場合に使用する呼称
- 事務所の所在地
- サイトのURLや電話番号
- サーバー設置者の氏名又は名称及び住所
上記の事項を届出書に記載して提出します。
届出書は別記様式第31号として様式が決まっており、警察署のHPからダウンロード可能です。
作成自体はそれほど難しいものではありません。
しかし、氏名や名称、住所は住民票と登記事項証明書の通りに記載しなければ届出は受理されません。
映像送信型性風俗特殊の届出の添付書類
届出書の他、添付書類も提出する必要があります。
添付書類に関しては「許可申請書の添付書類等に関する内閣府令」で規定されています。
(映像送信型性風俗特殊営業の届出書の添付書類)
一 営業を営もうとする場合における届出書 次に掲げる書類(法第三十一条の七第一項の届出書を提出して現に当該届出書に係る営業を営んでいる者が、他の映像送信型性風俗特殊営業について同項の届出書を同一の公安委員会に提出して当該営業を営もうとする場合における届出書については、ハ又はニに掲げるものを除く。)イ 営業の方法を記載した書類
ロ 事務所の使用について権原を有することを疎明する書類
ハ 営業を営もうとする者が個人であるときは、住民票の写し
ニ 営業を営もうとする者が法人であるときは、定款、登記事項証明書及び役員に係る住民票の写し
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に基づく許可申請書の添付書類等に関する内閣府令第13条
営業の方法を記載した書類
別記様式第32号として様式が決まっており、警察署のHPからダウンロード可能です。
18歳未満の者の利用を禁止する措置などを記載します。
警察署のHPで記載例なども紹介されているので参考にしましょう。
事務所の使用について権原を有することを疎明する書類
映像送信型性風俗特殊営業の届出の実務においては最も重要な書類と考えています。
そして届出のハードルを上げているポイントでもあります。
また、すべての風俗営業の許可や届出に共通する事項でもあります。
事務所が自己所有であれば当然に権限を有していますが、賃貸の場合はそうもいきません。
例えばビルの1室を賃貸した場合、ビルの所有者から「映像送信型性風俗特殊営業を行ってもよい」という承諾が必要となります。
なぜなら、ビルの所有者が自分のビルで性風俗特殊営業が行われているということを知らずに賃貸した場合、トラブルとなることが予想されるからです。
そのため、賃貸の場合は下記の書類を準備して届出を行います。
- 建物の登記事項証明書
- 建物賃貸借契約書
- 使用承諾書
建物の登記事項証明書
登記事項証明書は建物の所有者を明確にするために提出する必要があります。
何かトラブルや事故があった際に所有者が明確でないと責任の所在が曖昧になってしまうからです。
そのような事態を予防するため、登記事項証明書で所有者を明確にします。
登記事項証明書はどこの法務局でも誰でも取得可能です。(手数料はかかります)
今はオンライン申請が可能で手数料も安く、発行の待ち時間もないのでおすすめです。
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賃貸借契約書
事務所を賃貸する場合は通常、賃貸借契約書を締結します。
契約書上の賃貸人と賃借人が所有者と申請者であれば事務所の使用権原は認められます。
しかし、なんらかの事情で一致しないケースはよくあります。
そのような場合は建物の使用に関する権利関係をすべて整理する必要があります。
よくあるケースとしては、転貸借(サブリース)、「申請者は法人だが契約は個人」といったところです。
また、登記事項証明書における所有者の住所と賃貸借契約書上の住所が一致しているかも確認します。
一致していなかった場合は原因を究明して対応する必要があります。
使用承諾書
使用承諾書とは、事務所の使用権原を持つ者から「映像送信型性風俗特殊営業をしてもよい」という承諾があることを証する書類です。
通常、賃貸借契約書に風俗営業OKという文言が入っていることは稀です。
そのため、「事務所を貸したが性風俗特殊営業をするなんて思っていなかった」というトラブルが起こりがちです。
原則として使用承諾書は、建物の所有者→営業者(賃借人)に対してとなります。
また、所有者が複数いる場合はすべての所有者から使用承諾書をもらう必要があります。
転貸借(サブリース)の場合
転貸借とはいわゆる「又貸し」のことです。
賃貸借契約書を確認すると、賃貸人が建物の所有者ではないことがあります。
これは賃貸人が建物を所有者から借りて又貸しをしている場合やサブリース契約をしていることが考えられます。
この場合の使用承諾書は下記の通りとなります。
建物の所有者→営業者
契約書上の賃貸人(転貸人)→営業者
通常は上記の2通で問題ありませんが、念のため警察にも確認しておく必要があります。
賃借人と申請者が異なる場合
建物は個人で契約したけど申請は法人で行うというのがよくあるパターンです。
また、契約書上の賃借人から転借したり、建物を共有しているというケースもあります。
この場合の使用承諾書は下記の通りとなります。
建物の所有者→営業者
契約書上の賃借人→営業者
この場合、転貸借が可能かということも確認します。
また、転貸借契約書が必要となることもあります。
いずれにしろ、不動産業者と警察との協議は必須となります。
住民票の写し
申請者が個人の場合は、本籍が記載された住民票の写しが必要となります。
住民票の写しとは、役所に保管されている住民票原本の写しのことです。
つまり、発行された住民票そのものを提出します。
定款、登記事項証明書、住民票の写し
申請者が法人の場合は定款、法人登記事項証明書、役員全員分の住民票の写し(本籍記載)が必要です。
定款には原本証明が必要とする警察署もありますのであらかじめ確認しておきましょう。
また、役員の中に外国人の方がいる場合は在留カードの写しも必要です。
その際には在留資格も確認しておきましょう。
風俗営業の業務に従事できない在留資格だった場合、届出はできません。
その他任意で必要となる書類
以上が法令で規定された添付書類ですが、警察署によっては追加書類を求められることがあります。
例えば事務所の図面やインターネット契約を疎明する書類などを求められることがあります。
また、場合によっては上申書(理由書)が必要となるケースもあります。
例えば、賃貸借契約書の未締結、登記事項証明書の所有者が異なるといった場合です。
ただし、ここらへんは都道府県の公安委員会によってかなり対応が異なります。
法令で規定されていない以上、提出する必要はありませんが警察の担当者も人間です。
理不尽な要求に従う必要はありませんが、できる限り協力することで心象も変わります。
届出確認書の受領から営業開始まで
映像送信型性風俗特殊営業の届出が受理された10日後から営業が可能となります。
警察から連絡がきたら届出確認書を受け取りに行きましょう。
行政書士などに申請を委任している場合、届出時か受領時のいずれかで申請人の同行を求められることがあります。
営業開始後
映像送信型性風俗特殊営業を開始した後も注意することがあります。
風俗営業や性風俗特殊営業を営んでいる場合は従業者名簿を管理しておく必要があります。
実は映像送信型性風俗特殊営業は、従業者名簿の作成義務はありません。
ただし、他の法律に基づく労働者名簿は管理しておきましょう。
また、届出事項に変更があった場合は、変更の日から10日以内に変更届の提出が必要です。
風営法に基づく立入り調査は対象ではありません。
最後に
映像送信型性風俗特殊営業の届出から営業開始までの流れは以上です。
性風俗特殊営業は届出となるので風俗営業許可と比較して簡易的ではあります。
しかし、警察の審査が緩いというわけではありません。
むしろ風俗営業と比較しても厳しい指摘を受けることもよくあります。
事務所を賃貸する場合は上記のように手間もかかり、不動産の知識が必要となることもあります。
そのため、思わぬ時間を必要とすることがよくあります。
映像送信型性風俗特殊営業を少しでも早く開始したい方は弊所までご相談ください。
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