AV新法が施行されてもうすぐ2年になります。
正式名称は、「性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律」といいます。(以下、AV新法といいます)
内容に関して賛否はありますが、法令は遵守する必要があります。
また、法令違反となった場合は罰則が設けられています。
AV新法の内容に関しては、ネットで検索すれば解説サイトが数多くあります。
参考URL:法律の内容を知りたい方へ(内閣府男女共同参画局HP)
そこで、実務においてお問合せの多い契約書面等にスポットをあてて解説します。

契約書面等の交付義務

AV新法では、出演契約の締結と契約に係る説明義務が規定されています。

(出演契約書等の交付等義務)
第六条 制作公表者は、出演者との間で出演契約を締結したときは、速やかに、当該出演者に対し、出演契約事項が記載され又は記録された出演契約書等を交付し、又は提供しなければならない。

AV新法第6条

つまり、AVを制作するのであれば出演契約書と説明書面といった契約書面等を出演者に交付しなければなりません。

AV新法の対象となるもの

すべてのアダルト作品がAV新法の規制対象となるわけではありません。
コンテンツの内容や出演者の有無などが関係してきます。

性行為映像制作物

AV新法では「性行為映像制作物」を規制の対象としています。
以下の定義に当てはまるコンテンツであれば対象となります。

 この法律において「性行為映像制作物」とは、性行為に係る人の姿態を撮影した映像並びにこれに関連する映像及び音声によって構成され、社会通念上一体の内容を有するものとして制作された電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)又はこれに係る記録媒体であって、その全体として専ら性欲を興奮させ又は刺激するものをいう。

AV新法第2条2項

簡単にいうと「性行為」を撮影して性的刺激を与えるものを「性行為映像制作物」と定義しています。
「人」の姿態とあるのでAIやアニメ映像は見解の分かれるところではあります。
しかし、条文の解釈によっては対象となり得るので管轄の警察署に相談することをおすすめします。
また、AV新法では「性行為」を下記のように定義しています。

第二条 この法律において「性行為」とは、性交若しくは性交類似行為又は他人が人の露出された性器等(性器又はこう門をいう。以下この項において同じ。)を触る行為若しくは人が自己若しくは他人の露出された性器等を触る行為をいう

AV新法第2条1項

一般的なAVであれば、ほとんど該当するのではないかと思います。
判断が微妙な場合はご相談ください。

出演者の有無

AV新法は出演者がAVに出演することによって被る重大な被害の防止を目的としています。
つまり、出演者がいない場合は契約書面等の交付・説明義務はないと考えられます。
また、カップルや夫婦といった近しい関係でも出演者に該当するので規制の対象となります。

インディーズ作品

一般的にインディーズ作品とは、個人が自主製作したもので、大手メーカーのように審査団体の審査を受けていない作品です。
しかし、だからといってAV新法の規制対象ではないということはありません。
上記の「性行為映像制作物」に該当していればAV新法の規制対象となります。
製作者以外の出演者がいれば契約書面等の交付・説明する義務もあります。

出演契約書

出演者がいるAVを制作する場合は、出演契約を締結して契約書を交付しなければなりません。
ポイントは以下の通りです。

出演契約書のポイント
  • 作品ごとの契約
  • 書面又は電磁的記録による契約
  • 契約書に記載するべき事項が記載されている

作品ごとの契約

契約は作品ごとに締結する必要があります。
作品をまとめて包括的な契約といったことは認められていません。
悩ましいのは作品の独立性の判断ではないかと思います。
チャプターを区切っている場合や配信コンテンツが分かれている場合などは判断に迷うところです。
こういった場合は作品の内容ごとに判断していくことになります。

書面又は電磁的記録による契約

出演契約は書面又は電磁的記録でしなければ効力は生じません。
電磁的記録とはいわゆる電子契約になります。
どちらにしろ、実際に契約書を作成して出演者に対して交付する必要があります。
後から交付した、していないといったトラブルを避けるため、書面の交付やメール送付の証拠を残しておくとリスクが下がります。
具体的には契約締結時の動画撮影やメールの文面を紙として保管しておくとリスクが低減します。

契約書に記載するべき事項

出演契約は契約書を交付して締結すればよいというわけではありません。
契約書に以下の事項が記載されている必要があります。

出演契約書に記載する事項(AV新法第4条)
  • 制作公表者を特定する事項
  • 契約締結日・場所
  • 出演者がAVに出演すること
  • 撮影予定日・場所
  • 作品の具体的内容
  • 出演者以外の相手を特定する事項
  • 公表の具体的方法・期間
  • 制作公表者以外の者が公表する場合はその者を特定する事項
  • 出演者の報酬・支払時期
  • 頒布する国・地域、サーバー設置者の氏名・名称

制作公表者とは、制作したAVを公表する者で実際に出演者と契約を締結する者です。
特定する事項とは、電話番号などの連絡先や住所のことです。
撮影予定日や場所が確定していなくても、予定として記載しておく必要があります。
作品の具体定期内容に関しては、別途台本を用意しても問題ありません。

出演契約に係る説明義務

出演契約とあわせて契約内容を説明する必要もあります。
こちらも書面か電磁的記録で交付して説明する義務を負います。

説明事項

結構なボリュームですが、以下の事項をすべてわかりやすく説明する必要があります。
さらに、契約書の案を示した上で書面か電磁的記録で交付・提供しなければなりません。

説明事項(AV新法第5条)
  • 契約書の交付を受けてから1カ月の撮影禁止期間
  • 撮影を拒絶できること
  • 出演者の健康の保護、任意性の確保に対する配慮義務があること
  • テスト撮影など、いかなる撮影も対象となること
  • 映像を確認する機会があること
  • 公表は撮影が終了して日から4カ月後であること
  • 出演契約の無効事由
  • 出演契約の取消し事由
  • 出演契約の法定解除事由
  • 出演契約の任意解除事由
  • 解除に伴う原状回復義務
  • 出演契約の差止め事由
  • プロバイダ責任の特例
  • 取消し権の行使期間
  • 出演者が特定される可能性があること
  • 相談機関の名称・連絡先
  • 性感染症の検査の実施の有無
  • 出演者が理解できる言語で説明すること

契約書面等を交付しなかった場合

AV新法では下記の事項に違反した場合は罰則を定めています。

・出演者に対して契約書案を示して説明書面を交付・提供して説明する(AV新法5条1項)
・出演契約を締結した際は、出演者に対して出演契約書を交付・提供する(AV新法6条)

違反した場合は、6カ月以下の懲役若しくは100万以下の罰金、又は併科されます。
また、法人の場合は違反行為者の他、法人に対しても100万以下の罰金が科されます。

プラットフォームサイトなどへの対応

FC2やマイファンズといったプラットフォームサイトを利用している場合は注意が必要です。
規約などで契約書面等の交付が条件となっていることがあります。
また、映像送信型性風俗特殊営業の届出が必要なケースもあります。

最後に

AV新法の施行により製作者、出演者の手間や負担が増大しています。
製作者がAV新法の内容を理解して書面等を交付することは非常に時間がかかります。
弊所では、契約書面等作成から映像送信型性風俗特殊営業の届出、物件の選定までトータルでごサポート可能です。
AV制作、配信に関する事業をお考えの方は是非ご相談ください。

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