深夜まで営業している飲食店の数は減少傾向でしたが、新型コロナの5類移行もあり、需要は回復傾向です。
特にスナックやガールズバー、コンカフェといったお店は、深夜に営業することによって大きな売上が期待できます。
しかし、深夜に飲食店を営業するには、様々な規制がかかることを知っておく必要があります。
営業形態による営業可能時間や18歳未満の者の取扱い、風俗営業との関係など、深夜に飲食店を始める際に受ける規制のポイントを解説したいと思います。
風営法の規定
深夜に営業する飲食店に対しては、風営法による規制が入ります。
なぜこんな規制があるのかというと、昭和30年代に深夜喫茶が流行して社会問題化したことから、深夜に営業する飲食店に対して規制が加えられた経緯があります。
深夜に営業する飲食店営業の規制
風営法32条では、深夜(午前0時~6時)に営業する飲食店に対して、以下のように規定しています。
深夜において飲食店営業を営む者は、営業所の構造及び設備を、国家公安委員会規則で定める技術上の基準に適合するように維持しなければならない。
2 第十四条及び第十五条の規定は、深夜において飲食店営業を営む者について準用する。この場合において、これらの規定中「その営業」とあるのは、「その深夜における営業」と読み替えるものとする。
3 第二十二条第一項(第三号を除く。)の規定は、飲食店営業を営む者について準用する。この場合において、同項第一号及び第二号中「当該営業」とあるのは「当該営業(深夜における営業に限る。)」と、同項第四号中「業務」とあるのは「業務(少年の健全な育成に及ぼす影響が少ないものとして国家公安委員会規則で定める営業に係るものを除く。)」と、同項第五号中「十八歳未満」とあるのは「午後十時から翌日の午前六時までの時間において十八歳未満」と、「を営業所」とあるのは「を営業所(少年の健全な育成に及ぼす影響が少ないものとして国家公安委員会規則で定める営業に係るものを除く。)」と、「第二条第一項第五号の営業に係る営業所にあつては、午後十時から翌日の午前六時までの時間において客として立ち入らせること」とあるのは「保護者が同伴する十八歳未満の者を客として立ち入らせる場合を除く」と読み替えるものとする。
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第32条
条文をまとめると深夜に飲食店を営業する場合は、下記の規制を受けることになります。
22条1項3号(18歳未満の者に接待行為をさせること)の準用がないのは、接待行為はそもそも風俗営業1号許可が必要だからです。
- お店の構造・設備の技術上の基準(国家公安委員会規則99条)
- 騒音・振動の規制(風営法14条、15条)
- 客引き行為の禁止(風営法22条1項1号)
- 客引き行為をするための立ちふさがり、つきまといの禁止(風営法22条1項2号)
- 18歳未満の者を接客業務に従事させることの禁止(風営法22条1項4号)
- 22時以降に保護者の同伴のない18歳未満の者を客として立ち入らせることの禁止(風営法22条1項5号)
- 20歳未満の者に酒類又はたばこの提供の禁止(風営法22条1項6号)
お店の構造、設備の技術上の基準については下記の記事で解説していますのでご確認ください。
飲食店営業とは
風営法における飲食店営業とは、設備を設けて客に飲食をさせる営業で、食品衛生法の許可を受けて営むものです。(風営法第2条13項4号)
キャバクラやホストクラブなどでも飲食店営業許可を受けていますが、既に風営法の規制を受けているので上記の規制は適用されません。
国家公安委員会規則で定める深夜に営業する飲食店
32条3項に「国家公安員会規則で定める営業に係るものは除く」とあり、5.と6.の18歳未満の者に対する規制には緩和措置があります。
以下の規定に該当する飲食店であれば、18歳未満の者を接客業務で雇用することと、客として立ち入らせることは法律違反にはなりません。
つまり、高校生でも22時以降にアルバイトをすること、保護者の同伴なしでそのようなお店に行くことは可能です。(青少年健全育成条例などで別途規制していることはあります)
法第三十二条第三項において読み替えて準用する法第二十二条第一項第四号及び第五号の国家公安委員会規則で定める営業は、次の各号のいずれかに該当する営業とする。
一 営業の常態として客に通常主食と認められる食事を提供して営む飲食店営業(法第二条第十三項第四号に規定する飲食店営業をいう。以下同じ。)
二 前号に掲げるもののほか、営業の常態としてコーヒー、ケーキその他の茶菓類以外の飲食物を提供して営む飲食店営業(酒類を提供して営むものを除く。)
国家公安委員会規則第102条
営業の常態として、主食か主食以外でもコーヒーや茶菓子以外の飲食物を提供する飲食店であれば、この規定に該当します。
具体的には牛丼店やラーメン屋、うどん店などは、営業の常態として主食を提供している飲食店とされます。
主食以外の飲食物として、たこ焼き、フライドチキン、サラダ等が当たるとされていますので、これらの専門店も規制対象外となります。(解釈運用基準第28-3)
ただし、主食を提供しない上記のような専門店などの場合は、酒類を提供すると規制の対象となります。
一方、居酒屋やスナック、ガールズバーなどは常態として主食を提供しているとは言えませんので、22時以降に18歳未満の者を接客業務で雇用することと保護者同伴なしでの客を立ち入らせることはできません。
深夜における酒類提供飲食店営業の規制
深夜の時間帯に酒類提供飲食店として営業する場合は、規制のハードルがぐっと上がります。
1985年施行の改正風営法により、「深夜における酒類提供飲食店営業」(深夜酒類提供飲食店営業)として新設され、下記の規定の通り公安委員会への届出が必要となりました。
酒類提供飲食店営業を深夜において営もうとする者は、営業所ごとに、当該営業所の所在地を管轄する公安委員会に、次の事項を記載した届出書を提出しなければならない。
一 氏名又は名称及び住所並びに法人にあつては、その代表者の氏名
二 営業所の名称及び所在地
三 営業所の構造及び設備の概要
2 前項の届出書を提出した者は、当該営業を廃止したとき、又は同項各号(同項第二号に掲げる事項にあつては、営業所の名称に限る。)に掲げる事項に変更(内閣府令で定める軽微な変更を除く。)があつたときは、公安委員会に、廃止又は変更に係る事項その他の内閣府令で定める事項を記載した届出書を提出しなければならない。
3 前二項の届出書には、営業の方法を記載した書類その他の内閣府令で定める書類を添付しなければならない。
4 都道府県は、善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害する行為又は少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため必要があるときは、政令で定める基準に従い条例で定めるところにより、地域を定めて、深夜において酒類提供飲食店営業を営むことを禁止することができる。
5 前項の規定に基づく条例の規定は、その規定の施行又は適用の際現に第一項の届出書を提出して深夜において酒類提供飲食店営業を営んでいる者の当該営業については、適用しない。
6 第十八条の二の規定は、酒類提供飲食店営業(午前六時から午後十時までの時間においてのみ営むものを除く。)を営む者について準用する。
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第33条
酒類提供飲食店営業とは
酒類提供飲食店営業の定義は風営法第2条で規定されています。
具体的には居酒屋やバーのようにお酒をメインに提供している飲食店のことです。
提供するお酒の量やアルコールの濃度は関係ありません。
飲食店営業(設備を設けて客に飲食をさせる営業で食品衛生法(昭和二十二年法律第二百三十三号)第五十五条第一項の許可を受けて営むものをいい、前三号に掲げる営業に該当するものを除く。以下同じ。)のうち、バー、酒場その他客に酒類を提供して営む営業(営業の常態として、通常主食と認められる食事を提供して営むものを除く。以下「酒類提供飲食店営業」という。)
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第2条13項4号
「通常主食と認められる食事」とは、米飯類、パン類(菓子パン類除く)、めん類、ピザパイ、お好み焼き等がこれに当たります。したがって、食事がメインとなるラーメン屋や定食屋等は通常、酒類提供飲食店には当たりません。(そのようなお店で飲酒をメインにする方もいますが…)
「営業の常態として」とあるので、居酒屋などで最後に締めのラーメンなどを提供したとしても、営業時間の大部分で主食を提供していないので酒類提供飲食店の扱いとなります。
(解釈運用基準第11-7)
公安委員会への届出
深夜(午前0時~6時)に営業して、上記の「酒類提供飲食店」に該当する場合は、営業所を管轄する警察署に届出をする必要があります。
「深夜酒類提供飲食店営業の届出」(深酒とも略されます)といわれるものです。
深夜に酒類を提供しても「酒類提供飲食店」に該当しないラーメン屋や牛丼屋、ファミレスなどは届出をする必要はありません。
ただし、届出の必要がないだけであって「深夜に営業する飲食店」の規制は受けます。
実務的な話になりますが、届出といっても詳細な図面や登記事項証明書等、風俗営業許可を申請する場合と遜色ありませんので非常に手間がかかります。
深夜酒類提供飲食店営業の立地制限
飲食店や酒類提供飲食店の場合は、用途地域のよって営業所の床面積に若干制限がありますが、立地制限はほとんどありません。
しかし、深夜酒類提供飲食店に該当すると、各都道府県の条例で立地制限が設けられます。
ほとんどの都道府県の条例では住居系の用途地域が指定されています。
例えば東京都では、以下の用途地域では深夜酒類提供飲食店営業はできません。
- 第一種低層住居専用地域
- 第二種低層住居専用地域
- 第一種中高層住居専用地域
- 第二種中高層住居専用地域
- 第二種住居地域及び準住居地域
ただし、風俗営業にあるような保全対象施設に関する立地制限はありません。
学校や病院などが近くにあっても届出は受理されます。
拘束的行為の禁止
深夜酒類提供飲食店営業者は、風営法18条の2で規定する拘束的行為の規制が準用されます。
接待飲食等営業を営む風俗営業者は、その営業に関し、次に掲げる行為をしてはならない。
一 営業所で客に接する業務に従事する者(以下「接客従業者」という。)に対し、接客従業者でなくなつた場合には直ちに残存する債務を完済することを条件として、その支払能力に照らし不相当に高額の債務(利息制限法(昭和二十九年法律第百号)その他の法令の規定によりその全部又は一部が無効とされるものを含む。以下同じ。)を負担させること。
二 その支払能力に照らし不相当に高額の債務を負担させた接客従業者の旅券等(出入国管理及び難民認定法第二条第五号の旅券、道路交通法(昭和三十五年法律第百五号)第九十二条第一項の運転免許証その他求人者が求職者の本人確認のため通常提示を求める書類として政令で定めるものをいう。以下同じ。)を保管し、又は第三者に保管させること。
2 接待飲食等営業を営む風俗営業者は、接客業務受託営業を営む者が当該接客業務受託営業に関し第三十五条の三の規定に違反する行為又は売春防止法第九条、第十条若しくは第十二条の罪に当たる違法な行為をしている疑いがあると認められるときは、当該接客業務受託営業を営む者の使用人その他の従業者で当該違反行為の相手方となつているものが営業所で客に接する業務に従事することを防止するため必要な措置をとらなければならない。
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第18条の2
拘束的行為とは、従業者が売春をすることを助長するおそれがあると認められる行為のことをいいます。
具体的には、従業者が退職した場合に借金等のカタに多大な債務を負わせることや、パスポートを取り上げるといった行為のことです。
風俗営業との違い
深夜酒類提供飲食店の業態として多いのがスナックやガールズバー、コンカフェなどです。
異性のキャストが接客にあたるなど、キャバクラやホストクラブなどに近い営業をしているお店が多くあります。
しかし、深夜酒類提供飲食店はあくまで深夜にお酒を提供できる飲食店です。
店名にかかわらず、接待行為ができるお店は風俗営業1号許可を受けているお店だけです。
ガールズバーやコンカフェで接待行為を行ったため、無許可営業で摘発といったニュースは未だに後を絶ちません。
もし、接待行為を行うのであれば、風俗営業1号許可を受ける必要があります。
ただし、風俗営業1号許可を受けた場合は、深夜営業はできなくなり、18歳未満の客を立ち入らせることはできません。
最後に
深夜の時間帯に飲食店を営業する場合は様々な規制があります。
まずは、「深夜に営業する飲食店」、「酒類提供飲食店」、「深夜酒類提供飲食店」の違いを意識しておきましょう。
お酒を提供する時間や18歳未満の者の取扱い、風俗営業との境界には特に気を使う必要があります。
少しでも手続きに不安がある場合や、どのような許可が必要か迷うことがあればお気軽にご相談ください。
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